Edo Side Story

【after episoad】 display





さん、さん」

 いつもの様に、庭の掃除をしていたは、沖田に手招きされ、一時中断して、そちらへ行く。
 沖田の表情は、いたずらを思いついた子供のようでいて、誰かを陥れる策士のようでもあった。
 そして、彼はに携帯を差し出した。

さん。これ、誰の携帯かわかりますか?」

 どこか見覚えのある携帯。だが、携帯なんて、同じメーカーの同じ機種ならどれも同じ。
 特徴的なストラップでもつけていれば別だが、この携帯にはそんな物はついていない。

「誰のって言われても……」

 頭を傾げるに、沖田は楽しそうに答えを言った。

「土方さんのですぜィ」
「土方さんの? いいの? 持って来ても……。怒られるんじゃ……」
「そんなことよりも、開けてみてくだせぇ。面白い物が見れますぜ」

 人の携帯を本人に無断で開けるなんて、気分のいいものではない。
 だが、沖田がに見せるのだから、そこに何かあるのだろう。
 もしかして……他の想う人が出来て、その証拠でもあるのではないだろうか。とは不安な想像をしてしまった。
 中々開けないに、焦れた沖田は、あっさりと開けて、に見せた。

「…………え?」

 そこには、ではない別の女の子が映っていた。
 待ち受け画面にするくらいだから、その女の子が好きなのだろう。だが、これは浮気とは違うとはに分かっていた。
 なぜなら、そこに映っているのは、以外の女の子には違いないが、現実には存在しない女の子。
 今流行りのアニメの主人公のイラストだった。
 思わぬ展開に、キョトンとする
 片や沖田は、ニヤニヤと笑っている。
 と、そこに、すごいスピードで走ってくる足音が響いた。

「総悟ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 俺の携帯返しやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 今現在、の持っている携帯の持ち主であり、真選組の副長であり、そして、の恋人。

「何言ってんですか、俺は今、土方さんの携帯なんて持ってませんぜ」
「嘘付くんじゃ…………っ?!」

 土方が沖田を見ると、確かに彼は携帯を持っていなかった。しかし、土方の携帯は、別の人物の手の中にある。
 沖田を探すことに必死で、傍にがいることに気がつかなかった。
 土方はマズイ物を見られたと、冷汗を流しながら、に尋ねた。

……それ、中、見たのか?」
「はい。総悟君が見せてくれました」

 何事も無かったかのように言うに対し、土方は世界の終わりのような反応。
 無理も無い。愛しの恋人に、アニメのヒロインを待ち受けにしているのを見られたのだ。
 彼女の前では、かっこよく在りたいというのが、世の男共の常。そして、普段クールにきめてる土方にしてみれば、下手すれば、に愛想を尽かされるかもしれないのだ。

、これは……その……あの……」
「土方さんは、こういう女の子がタイプなんですか?」
「普段は強気で、でも、脆い所もあって、自分に涙なんか見せて弱音を吐いたりしてくれたら萌え…………って違ぇぇぇぇぇ!!!!」

 土方の言葉を気にせず、は彼の携帯を弄っている。
 土方は動揺しすぎて、が何かをしているのを全く気づいていない。
 は、沖田に携帯を渡し、そして、何かを言った。言われた沖田は少し驚いているようだが、に笑顔で頼まれて、仕方なくその頼みを承諾することにしたようだった。

「だから、それは、俺の趣味じゃなくて、妖刀が原因で……」
「土方さん」

 必死に弁解していたが、が自分の名前を言ったかと思うと頬に何かが触れるのを感じた。
 そして、同時にカシャッという携帯のカメラの音も。

さん。どうですか。こんなもんで」
「うん。ありがとう、総悟君。はい、土方さん携帯お返しします。勝手に見てしまってごめんなさい」

 携帯を沖田から受け取り、少し弄ると、固まってしまった土方の手に携帯を乗せた。
 そして、軽く頭を下げて、庭の方へ戻って行った。

さんに、土方の待受け見せて幻滅させてやろうと思ったのに、失敗かよ」
「……やっぱり、手前ェの仕業か、叩き切ってやる!」
「俺を切るより、さっさと携帯見た方がいいんじゃねえですかィ」

 土方は沖田を睨みつつ、そういえば、さっきカメラの音がしたと携帯を開けた。

「……なっ?!」

 見て土方は、絶句する。
 そこには、先ほど撮られたものであろう、土方とのツーショット。
 しかも、が土方の頬に口付けている瞬間だ。
 真っ赤になっている土方を見て、今がチャンスとばかりに沖田は姿を消した。

 いくら、現実の女の子ではないとしても、別の女が恋人の待受けなのは気分のいいものじゃない。
 ヤキモチを焼いたところで、しょーがないが、それでも焼かずにいられないのが乙女ゴコロというものだ。



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卯月 静 (08/05/27)