girasole

【19】





「ああ! 丁度いいところへ!」

 が屋敷に戻ると、キャバッローネの部下に泣きつかれた。

「俺達じゃ、手に負えません」

 本当に泣きそうになりながら訴える部下を見て、ロマーリオはを見た。

「言ってなかったのか……」
「そんなに時間はかからないと思ってたので……」

 一つ溜息を吐き、ロマーリオはの背を押した。
 これは、行ってやれということだろう。
 は、苦笑しつつ、急かす部下に付いて、早足で向かう。
 扉までくると、中で声がするのが聞こえた。分厚いドアだから、内容までは分からないが、そうとう大声で叫んでいるようだ。
 は、ゆっくりと、ノブを回し、ドアを開ける。
 開けると、中の人々の視線が、に集まる。
 中にいたキャバッローネの部下達は、助かったといった表情をしているようだ。そして、部下達の表情を認識する間もなく、の視界は真っ暗になった。
 誰かに抱きしめられたのだ。

っ!!」

 誰がを抱きしめたかなんて、言う必要もない。

「ちょっと、ディーノ、まだ安静にしてなきゃダメじゃない」

 ディーノの胸を押して、少しきつめの口調で言えば、ディーノはまるで、叱られた子犬の様な表情をした。
 成人した大人の男なのに、そんな表情をして、尚且つ可愛いとまで思ってしまうのは、がディーノを好きだからだろうか。

「目覚めたら、が居なくて、寂しかったんだぜ?」
「安静にってお医者さんにも言われたでしょ」

 そう言われて嬉しくないわけもないが、ここで流されてはいけない。相手は、医者に絶対安静と言われた怪我人だ。このまま、動いてたのでは、治る所か、悪化しかねない。
 三日間目が覚めず、その間ずっとは傍に付いていた。ディーノが眠り続ける三日間。たかが三日だが、にとっては、どれ程長い時だと思えたか……。それどころか、このまま目を覚まさなかったらどうしようとまで思ったのだ。
 あんな思いはしたくないと、は無理矢理、ディーノをベッドに戻す。しぶしぶではあるが、ディーノはベッドに戻った。
 ディーノがベッドに戻るのを見て、部下達は部屋を出て行く。

……何処に行ってたんだ?」
「……お墓参り……父様の」

 答えれば、それ以上はディーノは何も言わない。
 の父親の墓は、ここイタリアにあった。父が、生前から望んでいたことらしく、ボンゴレに所属していたということもあり、イタリアに墓を建てた。
 家光は勿論知っていたが、ここに父の墓があることはには伝えていなかった。それは、父親の墓にの母親が入っていないからだ。の両親の結婚は母親側の家族、親戚から猛反対を受けた。その為、駆け落ちするように結婚した母は、家から勘当されていた。しかし、やはり、娘は可愛かったのだろう、母の死後、遺体は母親の実家に引き取られた。そして、墓の場所すら告げることもなく、縁を切られたらしい。
 だから、父の墓がイタリアにあると聞き、せめて父の墓だけでもと思ったのだ。

「なあ、
「何?」

 に声を掛けたが、その先をディーノは何も言わない。ただ、じっとを見ている。そして、何かを決意した表情になると、ベッドサイドにあるテーブルに手を伸ばす。
 その二段目の引き出しに手を伸ばしているが、少し距離が遠いようで、体をベッドから乗り出すようにしている。
 が取ろうとすると、「自分で取るから」と遮られた。
 そして、引き出しを引き、中から何かを掴んだ。

「うわっ!!」
「ディーノッ!」

 目的の物を掴んだことに、気が緩んだのか、ディーノはベッドから落ちそうになる。はとっさに支えようとするが、勢いと、男の体重を支えられるわけもなく、一緒に床に倒れることになってしまう。

「っつー…………」
「大丈夫?」
「あ……ああ……」

 がディーノの下敷きになる格好。いや、ディーノに押し倒されていると言った方が正しいだろうか。その為に、やけにディーノとの距離が近い。

……俺はキャバッローネの十代目で、命に関わることだって、これから先多いと思う。それに、を危険な目に合わせる事だって……」

 脈絡のない言葉だったが、は何も言わなかった。いや、言っているディーノは真剣で、その瞳に飲まれてしまって、何も言えない。

「でも、俺は、に傍に居て欲しい。ずっと……だから……」

 ディーノは片手で引き出しから取った箱から、中身を取り出し、の左手を取る。そして、器用にの指に箱の中身を着ける。

、俺と結婚してください」

 の左手の薬指に着けられたものは指輪。銀色の輪にはの誕生石が付いている。
 驚きに声が出ず、只、自分の指を見つめる。
 やっとのことで、ディーノに視線を戻すと、彼は微笑んでいた。
 返事を、と思うが、上手く言葉が出ない。

「えっと……まだ、大学行かないといけなくて……だから……今すぐは……。でも、イヤなわけじゃなくて……嬉しいんだけど……その……」
「待つよ。が卒業するまで。だから、卒業したら、俺のところに来て」
「……はい……」

 ディーノが今までないくらい優しいと笑顔で言うものだから、は胸が詰まってしまって、返事をするのがやっとだった。
 の返事を聞くと、二人の距離はゆっくり縮まる。
 それに合わせるかのように、はゆっくりと、目を閉じた。


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卯月 静 (09/03/14)