girasole
【bambino】
「どう……しよう……」
は、手帳を見て、呟いた。
まさか、と思った。
だが、すぐそんなはずはないと打ち消す。
しかし、手帳のカレンダーが示すのは、紛れも無い事実で、心当たりはある。
杞憂に終ればいいと思った。
この手の相談をにしてきた友人のように……。
杞憂だったらいいのに、というの願いは叶えられることはなかった。
半ば、違って欲しいという願いも込めて、購入した検査薬は陽性を示している。
これは、の予想が確定したということに他ならない。
この検査薬はドラッグストアで買ったものだから、100%正確とはいえないのかもしれない。
だから、病院に行くべきなのだろう。
だけど、まだ、行く勇気、いや、事実を医者から告げられる覚悟がない。
先延ばしにした所で、何も変わりはしないということはわかっている。
それでも……。
は、覚悟を決めるかのように、深く溜息を吐いた。
「おめでとうございます」
病院で医者に告げられた時、やっぱりとしか思わなかった。
医者は何か手続きの説明をしているが、それが頭に入ってこない。
が、高校生であれば、医者は別の選択肢を出してきただろう。
しかし、は今学生だとはいえ、成人している。
だから、医者はそんな選択肢は勧めてはこないのかもしれない。
病院を出て、先ほどの医者の言葉を思い出す。
めでたい。確かに、めでたいことなのだろう。
が結婚しているのであれば、素直に喜べたはずだ。
だが、は未婚で、学生だ。
医者に告げられた時、いや、もしかしたらと思った時から、の中では答えは決まっていた。
「何て……言われるかな……」
彼には反対されるかもしれない。
いや、彼のことだから、責任を取ってというかもしれない。
だけど、彼の周りは反対するかもしれない。
普通の青年に見えるけど、ああ見えて、彼は大きな組織のトップに立つ人だ。
それが一般の娘と、というのは、相応しくないといわれても不思議は無い。
は、携帯を出して、彼に電話を掛ける。
海外にいることの方が多いから、国際電話が出来る携帯を渡されていた。
だけど、一回もこの携帯から掛けたことはない。
その初電話の用件がこれとは……。
『pronto』(もしもし)
「もしもし、私……」
『どうした? 珍しいな』
「……今度日本にはいつ来る予定?」
『俺に会えなくて寂しくなった?』
「…………うん」
『? 何かあったのか?』
「ううん、何もないよ」
『ならいいけどよ……。次そっちに行くのは一ヶ月後だな』
「一ヶ月……。分かった、じゃあまたね」
『え? おい、、おい』
まだ、何か話しているが、プツッと通話を切る。
そして、電源も切った。
「え……なんで、いるの?」
家の前には、彼がいた。
「二日前、様子変だっただろ? 急に電話切るし、掛けなおしても電源切ってるしな」
だから、一日だけ休みを貰ってきたと笑顔で言う彼を見て、は涙が出てきた。
「っ!? どうした!!」
急に泣き出したを見て、慌てる。
言わなければ……何を告げられてもいい覚悟は出来た。
自分の中の答えだって出てる。
「あの、ね……」
は真っ直ぐ見つめて言う。
「…………子供が……出来たの……」
産んでもいいと言われるか、堕ろせと言われるか……。
もしかしたら、別れなければいけないかもしれない。
驚いて固まってしまった彼は、我に返ると、口を開いた。
「って、ゆー夢を見てね……って、ディーノ聞いてた?」
眺めていた雑誌から目を放し、ディーノを見てみれば、ディーノは固まっていた。
「ディーノ? おーい」
傍に寄り、固まってしまっているディーノの目の前で手を振る。だが、ディーノの反応はない。視線は空を見つめたままで、止まっている。
「っ!!」
動かないと思ったら、は、急に抱きしめられてしまった。
「……もし、今子供が出来たとしても、俺は、堕ろせなんて言わないし、別れる気もない。周りにだって反対はさせない」
「だから、それは、夢の話で……」
現実には起こってないんだと言おうとしたが、ディーノの目は真剣で、何も言えなくなった。
「それに、これだけは、覚えておいてくれないか。もし、子供が先でも、責任とって結婚するわけなくて、のことが好きだから、結婚するんだ」
「……うん」
どうやら、ディーノは夢の話の途中で出てきた、責任云々というのが気に入らなかったらしい。でも、そう言ってくれたことがとても嬉しくて、ははにかみながら、頷いた。
Fine 戻る
卯月 静 (09/03/13)