girasole

【San Valentino】 恋人達の日





 もう直ぐ、バレンタインデーだ。日本では、女の子が好きな男の子に告白する日。もちろん、最近では、義理チョコや自分チョコ、感謝チョコ、はたまた逆チョコなんてものまで出てきた。それでも、女の子が好きな人に告白するというのはいつの時代も変わらない。
 それはも変わらない。できれば、バレンタインには会って、チョコを手渡ししたいな、とか思ったりもしていた。
 だが、のそんな淡い期待は打ち砕かれた。

「え?」
『本当に、悪い。暫く連絡できない』
「仕事が……忙しい?」
『ああ。落ち着いたら連絡するから』
「うん…………。仕事頑張ってね」

 受話器の向こうから聞こえる声は、紛れも無く愛しい人で、だが、その声で告げられたのはかなりショックなこと。
 忙しいのは知っているし、ディーノが無理して時間作って日本に来てくれているのも知っている。だから、本当は寂しいのだけど、ここで我侭を言ってしまうと、嫌われてしまうかもしれないと思ってしまう。
 精一杯の虚勢を張り、出来るだけ、落ち込んでいるのがわからない声で伝わっていればいいなと思いながら、電話を切った。
 溜息をついて、カレンダーを見る。バレンタインまであと一週間くらい。ディーノの言う暫く、がどれくらいなのか、それは分からないけれど、バレンタインには間に合わなさそうだ。

「郵送……くらいはしてもいいよね……」

 チョコを手渡しするという計画は無くなった。でも、バレンタインに何も贈らないというのもイヤだった。できれば、バレンタインの日に届けばいいなと思いながら、チョコと共に渡す予定だったものを箱に入れ送ることにした。





 バレンタイン当日。と言っても、今日は昼からは講義が休講で、午後には家に帰っていた。
 今頃、私の荷物は海の上かなぁ。それともイタリアに届いたかなあと思いながら、ボーッとしていた。来週提出のレポートがある為、パソコンを開いてはいるが、画面はワードの画面を開けたまま、何の文字も書かれてはいない。
 溜息をついていると、チャイムが鳴った。

「はーい。今行きまーす」

 現在、奈々は買い物中で、綱吉はまだ、学校から帰って来ていない。ランボやビアンキも出かけているようで、家に今いるのはだけだ。
 返事をしつつ、は駆け足で降り、ドアを開ける。

「Vorresti uscire con me?」(デートに行きませんか?)

 聞き覚えのある声がしたと思えば、目の前が真っ赤に染まった。

「え? 何?!」

 が声を上げると、目の前を遮っていた、真っ赤なモノは横に移動し、その代わりに、目に入って来たのは、大好きな金色。

「ディーノ……?」

 呆けているを見て、ディーノは笑っている。どうやら、先ほどの視界を遮ったのは、彼が持っている真っ赤なバラの花束のようだ。
 ディーノ自身は、スーツを着ている。スーツに赤い薔薇の花束。そこらの日本人男じゃ似合わないはずだが、ディーノがすると不自然さなど無い。スーツも、バラの花束も嫌味でも気障でもなく自然で、なんというか、カッコイイ。

「寂しい思いさせてゴメンな。今日はどうしても、と過ごしたかったから、仕事を詰めまくって、片付けてきた」

 ディーノのいつもと変わらない笑顔を見て、やっぱり、目の前にいるのはディーノだと安心する。連絡が無い時間は寂しかったが、目の前にディーノがいるという事実で、もうそんなことはどうでも良くなっていた。

「じゃあ、行くか」
「行くって……何処に?」

 ディーノに手を引かれるままになっていると、門の前には黒い高級車が停まっていた。促されるまま車に乗るが、今一状況が分からない。

「はい、これ、にプレゼント」
「え……なんで?」

 先ほどの花束を渡され、首を傾げる

「イタリアじゃ、この日は男女関係なく、愛する人に贈り物をするんだぜ」

 そこまで言われて、そういえば、ディーノはイタリアの人だったと思い出した。
 ヨーロッパでは、日本みたいに女性が男性に贈るのではなく、基本恋人同士が贈り物を贈りあうのが主流と聞いたことがある。
   少し照れながら、お礼を言って、それでもやはり嬉しいのは嬉しくて、自然と頬が緩んでしまう。
 そんな幸せ気分に浸っていると、あれよあれよという間に、トータルコーディネートされてしまった。こういうところは、彼は用意がいいのだ。
 予想通り、ディーノに連れられて着いたのは、高そうなレストラン。
 中に入れば、奥の部屋に案内された。所謂、VIPルームというところだろう。
 好きな人と、こんな素敵な店にこられるなんて、自分は今、夢を見ているのではないかと思ってしまう。

「…………ああっ!」
? どうかしたのか?」

 ふわふわとした気分のまま、ディーノと食事を楽しんでいたら、重要な事実に気がついた。
 てっきりディーノは今日、来ないと思っていた。思っていたから、彼用のチョコもないし、プレゼントは既に送ってしまったのだ。

「あのね……、こんなにいろいろしてもらったのに……私ディーノに何も用意してない……」
「なんだ、そんなことか」

 ディーノは本当に大したことではないと笑う。

「本当は用意してたんだよ。でも…………ディーノがこないと思ってたから……イタリアに送っちゃったけど……」
「じゃあ……ひょっとして、帰ったらからのプレゼントがあるのか?!」
「う、うん」
「そっか、そっか。と離れるのはいやだけど、イタリアに帰る楽しみも出来たな」

 ディーノは心底嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、もなんだから嬉しくなって、つられて笑顔になる。

「でも、本当にゴメンね。用意してなくて……あ、でも、ちょっとまって」

 そう言って、は鞄から小さな包みを取り出した。

「綱吉たちにあげたのと同じものではあるんだけど……」

 綱吉やリボーン、その他のいろんな人に義理や感謝チョコとして配ったものの残りだ。一応これだって手作りだ。本当はディーノの分は別に作ろうと思っていた。

「チョコ……?」
「うん。日本じゃ、女の子が男の子にチョコをあげる日だから」

 包みを開けると、中には数個のチョコレート。

「なあ、。食べさせて?」
「へ? ……ええ!?」

 ディーノのまさかな言葉に、は真っ赤になる。

「ダメ?」

 真っ直ぐを見て、甘えるような目で言われたら、こちらが折れるしかない。

「い、一個だけなら……」

 の返答に、ディーノは本当に嬉しそうな顔をする。
 包みから、一個取り出して、ドキドキしながら、ディーノの口元に運ぶ。軽く開けたディーノの口に放り込むように入れ、手を引っ込める。
 筈だったが、手首をディーノに掴まれてしまった。

「ディ、ディーノ?」
「……まだ、残ってる……」

 そう囁くように言うと、の指についていたココアパウダーを舐め取った。
 ディーノが掴む力を僅かに緩めた瞬間、反射的に引っ込めた。
 真っ赤になって、何も言えないに対して、ディーノは悪戯が成功したような、でもそこか嬉しそうな表情をしていた。


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卯月 静 (09/02/14)