Act.14 御礼






 爽やかな朝。
 外では小鳥のさえずりが聞こえ、部屋の中には日光が差し込んでいる。
 部屋の中を舞うわずかな埃が、光に反射してきらきらと光っている。その様子はある意味幻想的にも見える。

 コンッコンッ。
 ドアをノックする音が聞こえた。
 少しの静寂の後、ノックをした人物が部屋に入ってくる。

「失礼します。……何をしてらっしゃるのですか?」

 入ってきたのは東方司令部の軍医、。階級は少佐。
 その目線の先には部屋の主。

「いや……ははは……」

 先ほどのノックの瞬間固まってしまったロイ。
 彼は、開け放たれた窓のサッシに両手と左足をかけていた。

「す、少し部屋の空気を入れ替えようと思ってね」

 部屋の空気を入れ替えるのに片足をかける必要があるのだろうか。

「中尉に叱られても知りませんよ」
「君が黙っていれば大丈夫だ」

 さっきの様子から、間違いなくロイはサボろうとしていた。
 ドアからだと、ロイのお守りといわれている、リザに見つかるからと、窓からの逃亡を計ろうとしたのだろう。
 しかし、いざ自由の身へ!! っというところで、のノックの音だ。
 一瞬中尉が戻ってきたのかと、その場で固まって、先ほどの状態となった。

「そうですか」

 ロイの言葉に無表情にというか、呆れたようには返事を返す。
 短く答えた後、机に書類を置き、医務室に戻る。

少佐」

 そこで、呼び止められた。

「体調はもう大丈夫なのか」

 自分を気遣う、優しい声。

「はい、この間はご迷惑をおかけしました」

 再びロイの方を向き、一礼する。
 数日前、は体調を崩した。
 自分で自分を診断した結果、早急に帰るべきだと思った。
 しかし、今自分がというより、軍医がいなくなればいろいろと大変だろう。
 そう思いフラフラしながらも、仕事を続けていたのだが、ロイに気付かれた。
 そして、そんな状態で正しい診断ができるのかと怒られたのだ。

「いや、上司としては当然のことだよ」
「そうですか。では失礼します」

 そのまま、執務室を出て医務室に戻る。

 「上司だから」

 先ほどロイの言った、その言葉が引っかかる。
 確かにロイは自分の上司なのだから、不思議なことではない。
 は鈍感なわけではないから、相手が自分に好意を持っているかどうかくらいは分かる。
 別に自惚れでもなんでもないが、ロイが事ある毎に医務室に来たり、度々食事に誘ったりということで、少しはに好意を持ってるのも知っている。
 だが、それが一般に言う恋愛感情と言うものなのかは分からない。  ただ、女性の軍医と言うものが珍しいのかもしれないとも思っていた。

 そう、ただの興味心に違いない。
 そのうち飽きるだろう。
 彼、ロイ・マスタングの周りには浮いた噂が絶えないのだし、自分のことも気まぐれだ。
 そうは決定付けた。

「上司だから」と言われて少し残念に思う自分に気付かぬままに。


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卯月 静