お礼の気持ち




 2月。
 といえばバレンタイン。
 バレンタインの日である14日に一人なのは嫌だ!
 そういう思いがあるためか2月はやたらと急速にカップルが増える。
 そして……。

「勘弁してくださいよ。せっかく休みとったんスよ」

 金髪の青年は目の前の黒髪の上司に訴える。
 青年の名前はジャン・ハボック。
 ついこの間彼女ができたばかりだ。
 黒髪の上司の方はロイ・マスタング。
 どうしてこの男ばっかり!! と思うほど女性にモテル。

「しかたないだろ、我慢しろ」
 ハボックが何故訴えているかと言うと、折角とった14日の休みがなくなってしまいそうなのだ。というかさっきのロイの言葉で、無くなった。
 彼女ができたばっかりで、14日は彼女と過ごそうと約束していた。なのに……。

「安心しろ。私もその日は仕事だ」

 ハボックを慰めるために言ったが慰めにはならない。
 この人の場合は別にバレンタインだとか、クリスマスだとかに彼女との約束を果たせなくても、振られる確立なんて少ない。振られたとしても、すぐに恋人は出来る。
 ハボックは今にも呪い殺せそうな恨めしそうな目でロイをみる。

「大佐、頼まれていた書類をお持ちしました」
「中尉?! どうしたんスか?!」
 ハボックは部屋に入ってきた金髪美人、リザ・ホークアイを見て驚く。
 それもそのはず。リザはびしょ濡れになっていた。

「これはさっき外で雨に降られちゃって」
「中尉。コレに着替えるといい」

 渡されたのはロイの換えに持ってきていたシャツ。
「ありがとうございます。書類はココに置いておきますので」
「優しいっすね……」

 ハッボクはジトッっとした目でロイを見る。

「女性に親切にするのは当たり前だろう」
「はいはい、そうっすね。っとじゃ俺失礼しますんで」

 大佐に言っても結局無駄だったか……、と思いながら部屋を出た。




 2月14日。

「おいっハボック! シャンとしろっ!!」

 机でだれているハボックにロイの叱咤が飛ぶ。
 しかし、ハボックはそ知らぬ顔。

「この日に仕事のやる気を出せって方が無理ですって……」

 彼女持ちなのに、彼女と過ごせないバレンタインなんて……。

「ほら、これもって行け」
「へ〜い……」

 だらだらとロイが終らせた書類を持っていく。
 ハボックと入れ違いにリザが入ってきた。
 また新しい書類か……。と思っていたが持っていたのは書類ではなかった。

「大佐。これありがとうございました。すごく助かりました」

 持っているのは白いシャツ。
 きちんとアイロンがかけてある。

「ああ、わざわざアイロンまでしてくれたのか、ありがとう」
「いいえ。ココに置いておきますね」

 そういうとリザは傍にあった机の上に置いた。
 そして、「仕事があるから」とそうそうに部屋を出る。

「……少しは期待していたんだが……」

 どうやら今年はリザのチョコは貰えそうもない。
 去年は他のメンバーも仕事だったため、「ついで」だといって貰った。
 だが、今年はハボック以外のメンバーは休みだ。
 ハボックは彼女がいるというから、リザがあげることはないだろう。
 つまり「ついで」ということは無い。
 キッチリとアイロンのかけられたシャツを見る。
 そこに何か乗っているのが見えた。
 ロイはあわてて駆け寄る。
 そこにはキッチリとアイロンがけられたシャツのうえに、ラッピングされた箱があった。
 「あまり期待しすぎるな」と自分に言い聞かせながらも、期待しながらラッピングを解き、中を見る。
 中にはいくつかのチョコレートとメッセージカード。

「彼女らしいな……」

 呟いたロイの口元は緩んでいた。


ハッピーバレンタイン
ありがとうございました。
これはお礼です。



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卯月 静(05/02/20)