Christmas Night




 クリスマスの夜といえば恋人同士が過ごす聖なる夜。
 愛しい人といっしょにイヴは過ごしたい。
 それは、多くの恋人達が思っていることで、恋人がいればなおの事。

 もちろん、東方司令部、ロイ・マスタングも例外ではない。
 ロイはいままで、クリスマスに女性と過ごさなかったことなどは数える程しかない。それは別に恋人が出来なかったわけではなく、ただその日に仕事が入ってしまったという場合だけだ。
 しかし、今年は少し違っていた。
 今年はやっとの思いで、リザ・ホークアイ中尉にイヴを過ごす約束を取り付けた。
 取り付けた、といっても、リザからの返答は「仕事がなかったら」というものだが、それでもロイには十分だった。
 ロイはここ、東方司令部の大佐だ。イヴにリザと過ごしたいのなら、リザに回す仕事はイヴまでに終るものにすればいいし、自分自身もイヴまでに仕事を片付けてしまえばいい。
 つまり、「仕事がなかったら」というのはロイにとって、「YES」意外のなにものでもない。
 リザとの念願のクリスマスデートは今日!
 そう、今日がクリスマス・イヴなのだ。
 ロイ自身は仕事を終らした。そして、リザにも時間の掛かるような仕事は回していない。

「完璧だ」

 ロイが呟いたその声は小さなもので、周りの誰にも聞こえていない。
 しかし、その声はやたらと自信にあふれていた。



 リザと約束した時間には少し早いし、一応待ち合わせの場所も決めてはいるが、仕事もないだろうとリザを誘いに行くことにした。

「スンマセン。今日何か用事あるッスか?できればちょっと俺に付き合って欲しいんスけど」

 リザが居るだろう部屋にいくと、中から声がした。

「ハボック?」

 あの声はハボックだろう。しかし、いったい誰と話しているのだろう?
 気になったロイは慎重に中を伺った。

「中尉?!」

 ハボックと話しているのはリザ、ということは……先ほどハボックが誘っていた相手はリザ?
 しかし、ロイはときっとリザが断ると踏んで、様子を見ることにした。

「今日? ……そうねぇ……」

 リザは何かを考えているようだ。
 きっと今夜はロイとのデートがあるから。どう断ろうかと考えているのだろう。
 とロイは思っていた。次のリザの言葉を聞くまでは。

「ええ、いいわよ」
「なっ?!」

 ロイは思わず声を挙げそうになる。
 寸でのところで、押し黙り。その場を後にした。
 ロイが居なくなった後も、ハボックとリザの会話が続く。

「すんません。折角のクリスマスなのに。何か約束とかあるんじゃないんスか?」
「別にいいわよ。約束は夜だから、それまでに終らせましょう? ハボック少尉も約束があるんでしょう?」
「ええ、まぁ。一応。そんなにはかかりませんよ。つーか、あんまり中尉を独り占めしてると、大佐に文字通り焼かれるんで」



 まさかこんなことになるとは……。こんなことなら、「仕事がなければ」ではなく、きちんとした約束を取り付けて居ればよかった。

「まさか、ハボックにとられるとは……」

 中尉は今頃ハボックといるのだろう。きっと今夜は来ないだろうが、一応待ち合わせの場に行く。

「…………中尉? なぜ?」

 いくとそこには、リザが来ていた。紅い、ドレスを着てロイを見ていた。

「なぜって。大佐が私を誘ったんじゃありませんか」

 ロイの問いにリザは不思議そうに答える。

「だ、だが、今夜はハボックと過ごすんじゃ……」
「ハボック少尉とですか? ……ああ、あれは単に仕事のことで、聞きたいことがあるからってことですよ」
「仕事……。そうか、私はてっきり」

 それを聞いて、ホッとする。

「ひょっとして、大佐。今夜私が大佐との約束を断ってハボック少尉と過ごすと思ったんですか?」

 リザは微かに笑う。
 服装が違うからなのか、それとも、今日という日が特別だからか、リザがいつも以上に綺麗で、ロイはドキッとする。

「安心してください。私は大佐との約束を理由もなく破ったりはしませんよ」

 ああ、そうだった。彼女は理由もなく、しかも急に自分との約束を破ったりはしない。
 なぜ、あんなに不安になっていたんだろう。

「さて、じゃあ早速行くとするかな。お手をどうぞ」

 ロイはリザに手を差し出しエスコートする。
 リザも素直にロイの手をとる。


 聖なる夜は始まったばかり。
     恋人達の時間はこれからだ。


-END- 戻る


卯月 静(05/01/10 ウェブ拍手)