新年。
 町中が新しい年を向かえ、喜びに浸っていた。

 それはもちろんここ、東方司令部でも同じことである。
 大晦日に夜勤が当たったものもいるが、非番だった者も、結局数人は集まっているため新年はいつものメンバーで過ごすこととなった。

「あけましておめでとうございます、大佐」
「ああ、あけましておめでとう、中尉」




HATUMOUDE






「はぁ、新年だというのにまた仕事か……」

 ロイは目の前にある数十枚の書類をみてうんざりする。
 新年くらいは仕事も休みにして、ゆっくりしたい。
 だがそこは軍人。そうも言っていられない。
 こういう新年こそ警戒をしていなければ、軍に不満を持つものが事件を起こしかねない。
 それだけでなく、この浮かれたムードの勢いに乗って、バカなことをするやつも出てくる。

「いつもよりは少ないはずですが?」

 確かにロイの目の前にある書類はいつもよりは少ない。
 というか、今日の分しかないからだが。

「そりゃ、昨日あれだけやれば……な」

 昨日は大晦日、年の終わりということで、仕事を年越しさせるなと中尉の見張りの下、終らせた。

「大佐〜、中尉〜。朝食ッス」

 ハボックが二人に朝食を持ってきた。
 持ってきたのは四角い箱が4段重ねられたもの。
 その中に様々な種類の料理は入っている。
 これはどうやら東にある島国の風習らしいが、いい案だと中尉が作っておいて置いたものだ。

「さすが中尉だな。新年始めから美味しい料理が食べられて嬉しいよ」
「ありがとうございます」

 笑顔で言ったロイにリザも珍しく少し微笑んで答える。

(ほう……新年そうそうこれは得したな)

「さて、中尉に着てもらいたい物があるんだが」

 ロイは唐突に言う。
 そして、リザの答えも聞かずハボックに持って来さす。

「あの……大佐、これは?」

 リザの手元にあるのは綺麗な柄の布。どうやら服のようだが見たことがない。

「ああ、それは『キモノ』と言うらしいが、東の島国の者たちは新年にそれを着てお祈りに行くらしい」

 で、ロイは是非リザに着て欲しいということらしい。
 別に特におかしいものでもないから、着るのは構わない。しかし、着方が分からない。

「大佐、着るのは構いませんが……」
「ああ、どうやって着るかわからないのか、大丈夫だちゃんと着方の説明書も貰ってきた」

 そういいながら一枚の紙をリザに渡した。
 そこには事細かに説明が書いてあった。



「やはり、思ったとおりだな。似合ってるよ、中尉」
 仮眠室で着替えたリザは、『キモノ』が似合っていた。
 なれない『キモノ』だったが、説明は分かり易く書いてあり、これ自体初心者でも、簡単に着れるようになっていた。

「では、行こうか」

 ロイはリザに向かって手を差し出す。
 なれない服を着ているからリザは素直にその手をとる。

「で、どこに行くんですか?」
「祈るといったら、教会だろう」

 この服で教会というのも変な感じもしなくはないが、このさい仕方ないだろう。
 教会には数人の者が礼拝を行っていた。
 二人も祭壇の近くまで行き、祈ることにする。

「そうだ、知っていたか? 祈る時はこれから一年の願い事を言うらしいぞ」

 と祈る手前にロイが言った。
 言うが早いかロイはすぐに祈りを始めた。
 リザもそれにならい祈る。

「さて、司令部に戻ろうか」
「そうですね。これも脱がないと」
「別にそのままでいいじゃないか」
「これで仕事は出来ません」

 そんな会話をしながら二人は教会を後にした。



「これからも、傍にいられますように」


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 新年あけましておめでとうございます。
 え〜。クリスマスの小説がUPできなかったので、新年のは絶対UPするぞ!と書き上げました。
 よかった間にあって。
 着物を着たことがある人なら知ってると思いますが、初心者というか着物自体着たことのないリザさんが簡単に着れる筈もありません。
 が話の都合上着てくれないと困るので、「初心者用の着物」などというものは卯月は聞いたことがありません。捏造です。
 大佐は実は時代劇でやる「あ〜れ〜」とかいって帯をくるくる回すのがやりたくてリザさんに着物を着せたという話があったりなかったり。
卯月 静(05/01/01)