ヒカリ






 離れなければ良かった。

「すぐに上司の後を追わせてあげるわよ」

 目の前の黒髪の女はそう言った。
 「人柱を一晩に二人」とも。
 一人がアルフォンス君ならば、もう一人は…………。

「きっ……さまぁぁぁぁぁ!!」

 女に向かって銃を連射する。
 始めに沸いてきたのは怒り。
 目の前の女に対するものなのか、それともあの人を守れなかった自分に対してなのか。
 ひたすら撃つ。銃弾がなくなれば取り替えて。
 カチッ。カチッ。
 銃弾はつきたが女は死んでいない。
 私は……大切な人の仇さえ取れないのか……。
 あの時傍に付いていくべきだった。
 そうすれば、なんとしても死なせなかったのに。
 私自身があの人の盾になってでも。

「本当に愚かで弱い。悲しい生き物ね」

 私は只崩れ落ちる。

「中尉、立って。逃げるんだ」
「その女は死にたがっているんだから!」

 死にたがっている。
 そうなのかもしれない。守ると決めたあの人がいない今。私が生きる意味は。
 ナイ。
 でも、この子をしなせてはいけない。この、心優しい少年を死なせては。

「逃げなさい!!あなただけでも!!」

 私ハモウ立チアガルコトモデキナイ。

「いやだ!!いやなんだよ!! ボクのせいで……、自分の非力のせいで人が死ぬなんてもう沢山だ!! 守れたはずの人が目の前で死んで行くのを見るのは我慢できない!!」

 守レタハズノ人……。

「よく言った。アルフォンス・エルリック」

 聞きなれた、一番聞きたかった声。


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卯月 静(04/09/16)