大晦日。
 リザは一人自分のアパートにいた。
 年末と言うことで、多くの者は警備を兼ねての出勤だった。当然リザの出勤するつもりだったのだが、長い間休みを取っていなかった為に、上官であるロイに半ば強引に休みを取らされることになった。
 もちろん、一応後で休みは貰うからと言ってはみたが、ロイは聞き入れず、その上、他の部下達も休めと言ったために、リザの年末休暇は決定した。
 年末の休みにもなれば、実家に帰るものが多いだろうが、生憎、リザは家に帰る気はなく、アパートで過ごすことにした。もちろん、祖父が年末に休暇をもらえたのだから一緒に年を越したいとは言っていたが、丁重に断った。
 休日を貰ったといっても、いつでも何かあれば出動できるようにして置きたかったからだ。

 シャワーを浴び、浴室から出てきた所でドアベルが鳴った。





一年の計は……






「突然悪いね」

 ドアを開けるとそこにいたのは、リザの上官であるロイ。

「大佐? こんな時間に、何かあったんですか?」
「いや、近くを通りかかったものだから、君の顔でも見て帰ろうかと思ってね」
「そうですか……。…………中入りますか?」
「ああ、そうさせてもらうよ」

 リザが中へ誘うだろうと見越してか、ロイは勝手知ったるといった様子で、部屋に入る。
 リザに促されて、テーブルにつくと、リザはコーヒーを淹れて持ってきた。

「これを飲んだら、仕事に戻って下さいね」
「分かってるよ」

 ロイは今日は非番ではなかったはずだ、と思い、仕事に戻るように釘をさすのを忘れない。ここで、ちゃんと言っておかないと、「早く帰れといわなかったじゃないか」と延々ここに居座りかねない。

「今日はサボってどなたかとデートではなかったんですね」

 リザの問いに、ロイは一瞬意外だといった顔をした。
 リザからこの手の質問が飛んでくることは珍しい。

「一緒に年を越す相手は野郎より、美しい女性の方がいいと思ってここに着たんじゃないか」
「大佐、それでは答えに……」
「今日のデートの相手は中尉だよ」
「……そうですか」

 ロイの言葉にも全く顔色を変えないリザ。
 失敗か、とロイは残念に思う。普通の女性なら、今の言葉で赤くなるなり何なりなっていたとは思うが、リザが相手ではそれも難しいようだ。

「一年間世話になったんだ、一緒に年を越すのもいいだろう」
「……そうですね」

 普通は「私の方こそ」と返ってきそうな場面だが、昨年お世話になったのは明らかにロイの方である。
 これは、誰しもがうなずくことだろう。
 ロイ自身も分かってるため、否定しなかったリザに腹が立ったりはしない。

 後数分で年が変わる。
 年が変わっても傍にいる相手はきっとこの先変わることはないだろう。
 むしろ、ロイ自身が変えるつもりはない。

「あけまして、おめでとうございます。大佐」
「え、ああ。おめでとう、中尉」

 いつの間にか日付は変わり、年も変わっていたようだ。

「さて、コーヒーもなくなったことだし、私はそろそろ仕事に戻るよ」
「珍しいですね、大佐が自分から帰られるなんて」
「一年の計は元旦にありというだろう? 元旦くらい真面目にしないとな」

 帰るとロイが言っても、リザの声には名残惜しそうな感情は聞き取れない。
 むしろ、すんなりロイのコートを用意して、玄関まで見送りにいく。

「では、また司令室で会おう」
「はい、お気をつけて」
「今年の初めに言葉を交わしたのが好きな女性で、きっと私の一年は素敵な年になりそうだよ」
「え?」

 リザが反応する間もなく。ロイはパタンッとドアを閉めてしまった。
 言葉の真意を知りたいとは思うが、追いかけていくのはリザの性格上できない。
 むしろ、それを分かって、帰り際に通り魔の如く言ったのだろう。

 どうやら、今年もリザは好きな男性に翻弄されることになりそうだ


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一年の計は元旦に在りってことで、元旦の更新です。
これからも、よろしくおねがいします。
卯月 静(07/01/01)