学校の先生、花屋さん、お菓子屋さん、消防士……。
 子供のころに憧れる職業は様々で、しかし、その子供の頃の夢をずっと持ち続け、尚且つそれを叶えることの出来る人は少ない。




幼き夢






「あ、中尉! 丁度いい所に!」

 ハボックは入ってきた、ホークアイに尋ねる。

「丁度いいって何が?」
「ああ、小さい頃何になりたかったかって話ッスよ」

 ハボックは先ほど、話していた話題をホークアイに降る。

「小さい頃……ねぇ? 何になりたかったかしら?」

 ホークアイは首を傾げながら、考える。
 小さい頃のことは改めて考えないと、中々思い出せない。
 それに、小さい頃の夢などという、こととなれば尚更だ。

「あ、ひょっとしてお嫁さんとかッスか?」

 ハボックは思いついたように、言う。
 確かに『お嫁さん』は女の子が憧れる将来の夢の一つだ。

 しかし、美人だが厳しいと評判のホークアイからはあまり想像はできない。

「そうね。化学者の助手……かしら」
「化学者の助手ッスか……」

 予想もしなかったホークアイの言葉にハボックはあっけにとられたように返事を返した。

「ええ、父が化学者だったものだから」

 ホークアイの言葉にやっと納得がいく。
 親の職業に憧れるのはよくあることだ。

「さて、そろそろ、私は行くわね」

 ホークアイは机の上の書類をまとめ、部屋を出ていく。

 コンッコンッ。
 ノックをして、向かった部屋に入る。

「失礼します。頼まれていた資料をお持ちしました」

 その先には黒髪の男。

 ホークアイの上司である、マスタング大佐だ。

「ああ、ありがとう」
「いえ。そういえば、大佐は子供の頃何になりたかったんですか?」

 ホークアイの唐突で、普段聞かないような質問にマスタングは驚く。

「珍しいな、君がそんな質問をするなんて」
「先ほど、ハボック少尉達がそんな話をしていたもので」
「なるほどな。で、君の小さい頃の夢は何だったんだ」
「化学者の助手です。父が化学者でしたので」
「ほう。お嫁さんとかではないのだな」

 マスタングは少し笑っている。

「それはハボック少尉にも言われましたよ」

 ホークアイは呆れ気味に答えた。

「女の子の夢といえば、お嫁さんだろう」
「では、大佐は何だったんですか?」
「私か? 私は昔から錬金術師が夢だったよ」

 錬金術師になりたいと思ったからこそ、弟子入りし、ここまでになった。

「化学者の助手か……」
「どうかなさいましたか?」

 深く考え込むマスタングの尋ねる。

「せめて、化学者のお嫁さんと言ってくれれば叶えてあげることもできたんだがな」
「ご冗談を」

 しかし、ホークアイは動じない。

「バカなことを言っていないで早く仕事をなさって下さい」

 と言って、部屋を出て行く。

「大総統のお嫁さんでしたらなってもかまいませんよ」

 と言い残した。




-END- 戻る


卯月 静