捜査 7




「リザ……」

 囁きながら、ロイはリザの腰に腕を回して、自分の方に引き寄せる。

「た、大佐?!」

 急なことに驚いて、ロイの方をみた。またいつものおふざけならば、突き飛ばそうなどと思いながら。
 しかし、そこにあったのは、声とは全く逆の大佐である、ロイの表情だった。

「驚かせて悪かったね。でも、こうしていれば、誰にも邪魔はされないだろう。たとえ邪魔が入っても君となら、問題は何もない」
「そうですね。貴方と私であればどんな危機もよい方向に向かうと信じておりますわ」

『今起こっている事件も』

 今の風景をハボック達がみたら、きっと唖然としていただろう。
 それと同時に、二人の雰囲気と言葉があっていないことも、2人の会話に隠されている意図も気付いたであろう。
 しかし、ここに彼らはいない。

「……っ!? ……これだから女ってやつはっ!!」

 ロイとリザを睨みながら吐き捨てる一人の男。
 その瞳は怨みで濁っていた。そして、先ほどから、ロイとリザがこの公園にきてからずっと付けていた男だった。
 噂の事件のおかげで、この公園に恋人達がくることはない。
 しかし、今日は珍しく男女の2人組が通った。それが、ロイとリザだ。
 いつも一緒にいる2人だが、その間に恋愛感情のある、噂は聞かない。聞くのはロイの噂ばかりだ。
 しかし、今日はどうだろう。周りに人がいないことをいいことに、ロイがリザを口説きはじめ、リザも満更ではないような様子。

「……俺を…………ったくせにぃっ!!!」

 その瞬間男は2人の背後まで迫った。

「背後からの攻撃とは関心せんな」

 という声とパチンッといった音とともに、男が吹っ飛ばされた。
 何が起こったのか分からないまま、だが、体を起しかけた瞬間、目の前には銃口があった。
 そして、その銃口の先には、男を見据えるリザがいた。

「貴様が、最近の事件の犯人か。ふむ。カップルばかり狙うなど、どれほど不細工な男かと思えば、顔は悪くないな」

 私には負けるがな。などといってロイはその隣で笑っている。

「中尉。軍部に連絡を。さて、男。憲兵がくるまで言い訳くらいは聞いてやろう」




「で、結局動機って何だったんスか?」

 男が連れて行かれる様子をみながら、駆けつけたハボックが問う。

「ん? ああ……。ただの逆恨みだ」
「逆恨み……スか?」

 犯人は事件を起す数日前に恋人に振られたらしい。あまりに突然のことで、納得のいかなかった犯人は彼女を追いかけた。
 しかし、そこで、見たのは、彼女と自分がいるにもかかわらず今まで彼女にアプローチをかけてきていた男だった。

『大丈夫よ。私は経済力とか関係なく、好きなのはあなただけだもの』

 そう言っていたのに……。
 相手の男は顔もよく、金持ちで、家柄もいい。
 それに比べ、自分は並の容姿に、シェフの見習いのために金もない。

『結局、彼女はああいう男がいいんだ……。どんなに、好きだといってても、結局お金や容姿のいい男のところに女は行ってしまうんだ』

 そう思うようになった。

「そう思い出したら、公園にいる幸せそうなカップルを昔の恋人と相手の男が重ねてしまったらしい」
「彼女に振られてねぇ〜」

 ふ〜っとハボックは煙を吐く。
 彼女に振られて事件なんて起していたら、ハボックなんて、何回ロイに想い人をとられたかわからない。

「戻るぞ、ハボック」

 一言そう言って、ロイは歩き出す。
 犯人がロイに最後に聞いた言葉を思い出しながら。


「本当におとり捜査なのか、あんた達?どうみても、恋人同士のようだったぜ」


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卯月 静(06/01/01)