【戦国御伽草紙:鬼ヶ島の乙姫】

番外編 初めての





 新年の食べ物と言えば、おせち料理にお雑煮。
 いつもなら、作るのは元親の部下達だが、今回はが自ら作ると申し出た。
 の料理は、皆が気に入っている。普段の食事も殆どが彼女が作っている。彼女の料理が不味かったことはない。
 だが、渡された椀の中を見て、箸を付けるのをためらってしまった。
 出されたおせち料理は何の問題もなかった。しかし、お雑煮の方は……。

……これ、何だ?」
「何って、お雑煮ですよ」

 部下に次々と雑煮を注ぎながら答えた。

「…………だよな……」

 元親はもう一度、椀の中をみる。
 丸い餅といくつかの野菜。間違いなく雑煮だろう。
 ただ…………椀の中は真っ白だ。
 餅の白ではない。

「…………お口に合いませんか?」

 そんなに悲しそうな顔をしないで欲しい。
 彼女を悲しませたいわけじゃない。

「いや。今から食うとこだ」

 まず一口汁に口を付ける。
 少し甘めで、どうやら、白味噌で味を付けているらしい。思ったほど違和感はなかった。こういう味もありだろう。
 なら、問題はないだろうと、餅も食べようと箸で餅を持ち上げたが、その餅を見て固まってしまった。

「餡が……入ってんのか?」
「はい、そうですけど?」

 を見ても特に変なところはないだろう、といった様子だ。
 雑煮に餡の入った餅…………。味の想像ができない。汁粉なら分かるが、雑煮になぜ餡の入った餅なのだろうか……。

「元親様?」
「ああ、悪ぃ」

 ここで、食べないというわけにはいかない。雑煮に餡入りの餅。一見すれば合わないとしか思えないが……。
 ここで、もやもやと考えていてもしょうがない、元親は意を決して雑煮を口にした。

「……意外と、美味い……」

 元親の答えに、は心底ほっとしているようだ。
 雑煮は思ったよりも美味しかった。元親が食べたからか、部下達も食べ始めた。
 彼らにも中々評判はいいようだ。
 どうやら、の育ったところの雑煮は白味噌仕立てで、餡入りの餅で作るらしい。

「あの……今度はいつもの味付けにしますから、教えてくださいね」

 はそう言ったが、この味付けが気に入ったようで、これがいいというやつもいる。というか、別に不味いわけではないから、これでもいいというのが皆の意見だろう。
 それでも、はいつもの味の物が欲しい人もいるだろうからと、是非教えてくれという。

「じゃあ、次は俺も作るぜ」

 自分は雪国を統べる竜のように料理の趣味はないが、と料理をするのも悪くないと思った。

。あけましておめでとう。今年も頼むぜ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」


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2009年の新年フリー夢だったもの。
卯月 静 (09/01/01)