【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】

番外編 想いを返す日





 一ヶ月という時間は意外と早いものだが、人が何かを忘れるには十分な日ともいえる。
 事実、も一ヶ月前のバレンタインの日に、チョコレートならぬ、ハート型の団子をあげたことなど、すっかり忘れていた。
 だから、今日が3月の14日だということも覚えていなかった。

 いつもなら、執務に追われているだろう政宗が、今日は自室にいない。
 本来なら、自室に政宗がいなければ、小十郎は政宗を探しに行くのだが、今日に限ってはそれをしない。
 そのうえ、朝食の時に政宗に会ったきり、は政宗と会ってなかった。
 執務をしていないから、おやつをもっていくこともなく、は暇だと感じながら、部屋で過ごしていた。

 そして、日も落ち始め、夕食時。

。夕食を用意したぜ」

 と、珍しく、政宗が呼びにきた。
 いつもであれば、女中が呼びにきて、部屋に行くとすでに政宗がいるということが多いのに。

「あれ? 政宗が呼びにくるなんて、珍しい」
「今日は special な日だからな」

 そう言う政宗に、はついていく。
 着いたのはいつも夕食をとる部屋。
 しかし、いつもより、料理は豪華で、華やかだった。

「すごい……。今日何かの祝いの日?」

 座ったは隣に座る政宗に聞く。

「What's the date today?」(今日は何日だ?)
「えっと……3月14日……。あっ!」
「やっと気付いたか……」

 弥生の14日がホワイトデーだと教えたのは自身だ。
 あの時は、恥ずかしくて、政宗が忘れていますように、と思っていたが、政宗は忘れず、渡したがすっかり忘れていた。

「今日の馳走は俺と小十郎からの White day のお返しだ」

 自分はお団子、対する政宗のお返しは豪華な食事。
 これは、3倍返し以上なのではなかろうか。

が手作りで団子をくれたからな、これは俺がお前の為に作った」

 材料は小十郎の畑から採れたものだ。と言う政宗には驚いた。

「これ、政宗が作ったの? ホントに?」
「Yes!」

 はここに来る前は一人暮らしをしていた身だ。料理が出来ないわけではない。
 しかし、政宗が仮にも城の殿が料理をこれほどまで上手に作ることが出来るとは思っていなかった。
 自分以上に料理の出来る政宗が少し羨ましいとも思う。

「食べてみろよ」
「い、いただきます」

 政宗に促されて、箸を付ける。

「どうだ?」
「美味しい……。すっごい美味しい!!」

 お世辞抜きに美味しいと思える料理に、は笑顔で答える。
 そのの反応に、政宗は少しばかり安心した。自分の料理の腕は自信はあるが、万が一、の口に合わなかったらどうしようかと、そう思っていたのだ。
 バレンタインの日、は政宗に手作りの団子をくれた。
 それならば、手作りには手作りで返そうと、普段は滅多に人には振舞わない自分の料理をの為だけに作ったのだ。
 もちろん、最初は何かを買って渡そうかと思っていた。
 着物や簪などを贈ろうとも思ったのだが、どれもしっくりこなかった。
 小十郎もに貰ったのだから、と相談してみれば、小十郎の野菜で得意の料理を作ってあげればいいと言われたのだ。
 それなら、小十郎もにお返しが出来るから、と。



 は全て美味しく食べた。
 城の食事が決して不味いというわけではないが、政宗の料理は格別だった。

「今日の料理本当に美味しかったよ。また作ってね」
「時間があればな」
「うん。楽しみにしてるから」

 食事の後、今日は Tea time が出来なかったからと、デザートと言うことで、部屋でお菓子とお茶を二人で飲んでいた。
 飲み終わったお茶やら、菓子やら、すでに下げてもらっている。

「そろそろ寝るから、戻るね」

 夜も遅くなったし、と、部屋に戻ろうとは立ち上がった。
 が、腕を政宗に引っ張られ、政宗の方に倒れ込んだ。

「危ないなぁ。急に引っ張らないでよ」
「まだ、料理するモノが残ってるんでな」
「は?」

 が疑問符を頭に浮かべている間に、なぜかは天井を背にした政宗に見下ろされる体制になった。

「ちょっ!! なんで私押し倒されてんの!!」
「言っただろ。まだ料理するモノが残ってるって」

 ニヤリとシニカルに笑う政宗に、は嫌な予感がした……。

「ストップ!! って言ってるそばから帯解かないでってば!!」
「I can't wait」(待てねえな)

 そういうと、政宗はに深く口づけた。


終 戻る

卯月 静 (07/03/11)