【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】番外編 花見〜夜桜〜
「出かけるぞ、支度しろ」 スパンッと襖を開けて入ってくるなり、政宗はそう言い放った。 仮にもレディーの部屋だ。ノック……は襖だから無理だとしても、一言掛けるくらいしろよ、と思わないでもない。 しかし、政宗のこの唐突ぶりは今に始まったことではない。そのことは、いつも振り回されるもよく知っている。 「出かけるって……もう、夕方じゃん」 既に、日は暮れ始め、太陽も沈みかけている。 今出かけたところで、夜の街をあるくことになる。 夜の街も面白いとは思うが、昼より物騒になって危険度が上がる。そんなところへ、城の殿様が行っていいわけがない。きっと小十郎に止められるはずなのだが。 「他のヤツらは準備は終ってんだ。Harry up」(早くしろ) 「分かったから、ちょっと待ってって……」 は慌てて、出かける用意をする。 用意といっても、今着ている着物の上に一枚羽織って、小物類を入れた巾着を取る。 別に金子などが入っているわけではないが、現代でも出かける時は大体バッグを持ってたせいか、ないと何となく落ち着かないのだ。 「で、何処に行くの?」 半ば、というか、思いっきり引っ張られて部屋を出て、廊下を歩く。どんどん進む政宗に追いつくのに、は小走りになっている。 「花見だ」 「花見?」 門の前に着くと、そこには馬に乗った伊達の人々がいた。 その馬にはどれもいろんな荷物が乗っている。 しかも、久しぶりに騒げるからか、皆その楽しみなのがありありと見て取れる。 花見なんていつ振りだろう? と考えつつ、政宗に引っ張ってもらい、馬に乗った。 それと同時に、政宗の運転というか、手綱捌きが荒っぽいことを思い出し、乗っている間中、政宗にしがみ付いていた。 花見会場の桜は八分咲きといったところか。多分今が見ごろなのだろう。満開になってしまうと、散るのも早い。 今でもチラホラと桜の花びらが舞っている。 現代でも花見はしたことはあるが、こんな大人数でしたことはない。 5、6人でというのが精々だ。 しかし、予想はしていたが、伊達軍の羽目の外しっぷりはすごい。 最近は戦がなく、鬱憤が溜まっていたのだろうか、皆思いっきり飲んでいる。 花見ではなく、只の宴会になっているような気もする。 夜のために、桜は昼とは違った顔を見せている。昼間よりも、ミステリアスだ。 こんなにキレイなのに、見ればいいのに、と思わないでもないが、どうやら伊達軍は花より団子の方らしい。 「様! 俺に一杯注がせて下せぇ」 「え、ありがと」 伊達の若い衆がに酌をしにくる。ここにしか女性がいないから、返杯でもしてもらって、女性の酌で飲もうという魂胆かどうかは分からないが、次々にくる。 は酒に弱いわけではないが、強くも無い。 次々と注がれ多ために、段々酔ってきているらしい。 その上、今回持ってきているのは日本酒だ。現代のようにチューハイとかでもあればいいのだが、そんなものがこの時代にあるわけがない。ワインはあったようだが、それでも、現代程甘いものがあるでもない。 「おい、。大丈夫か?」 「ん〜。たぶん、大丈夫」 が酒に強いか、弱いか知らない政宗は、心配になって声をかけた。飲んでる量の割には言葉はしっかりしているから、大丈夫なのだろうと思った。 「ちゃーんっ! 飲んでる〜?」 明るい調子で声をかけてきたのは成実だ。 彼はもう大分飲んだようで、出来上がっている。その証拠に、成実の持っている一升瓶は半分以上が空いている。 もちろん、成実だけが飲んだわけでもないだろうが、かなり飲んだに違いない。 「ほらほら、ちゃんも、飲んで飲んで」 「う、うん。ありがとう」 の飲んでいた猪口に並々を注がれた。まだ、余裕はあるから、いいかっとその猪口をグイッとあおった。 「お! いい飲みっぷりじゃん! ほらっ、どんどん飲んで飲んで」 成実は完全に酔っ払と化している。さっきが空けた猪口にまた注ぐ。 それを飲み干し、返杯をと、成実の持っていた猪口に注ぐ。 「今度は成実の番ね。はいどーぞ」 「お、ありがとう」 成実は酒の注がれた猪口に口をつける。 が、それを横から奪われた。 「何するんだよ、殿ーっ! 折角ちゃんが注いでくれたのにっ」 「いつまでもに絡んでんじゃねぇよ」 奪われた猪口の中身は、政宗に飲み干され、抗議する成実を睨んで言い捨てる。 その言葉に、最初は起こっていた成実だが、暫くするとにやにやと笑いだした。 「男の嫉妬ってのは格好悪いぜ、梵」 「誰が、手前ぇ相手なんかに嫉妬するかよっ」 梵というのは、政宗の幼少期の名前である梵天丸時代からの呼び名だ。 主と家臣という間柄ではあるが、従兄ということもあり、幼い頃から知っている、所謂幼馴染というやつだ。 元服してからはその名前で呼ぶことは無くなったが、酔っているせいか、口にでてしまったらしい。 呼び名のことは何も気にせず、二人は互いに悪口を言い合っている。その内容はまるで子供の喧嘩のような内容で、「お前は俺よりも背が低い」だとか、「餓鬼の頃は独りで寝れなくて、侍女に泣きついた癖に」だとか低レベルなものだ。 それでも、それが口喧嘩に留まらず、刀を抜いての喧嘩になると厄介だと感じたは、近くにいた小十郎に助けを仰ぐ。 「小十郎さん、アレ、止めなくていいんですか? というより、止めて下さい」 「いつものことだ、放っておけばいい」 と言い、一蹴されてしまった。 「こうなったら、勝負だ、梵!」 「望むところだっ!」 二人が叫ぶや否や、周りの伊達のメンバーが集まってきた。 「政宗様と成実様が勝負するらしいぜ」 「しかも、様を巡っての勝負だってよ」 「おおーーっ!!」 聴衆は好き勝手いっている。 いつの間にか、二人の勝負の原因はになっている 「政宗様ーっ! 様にカッコイイとこ見せて下さいよ」 「Yes, sure」(もちろんだ) 「成実様ーっ! 珠には筆頭に勝って下さいっ!」 「まかせとけっ!」 周りの部下達は、酒が入っているせいか、言いたい放題で、二人を煽っている。 ちょっとヤバイんじゃないか、とは感じたが、この二人を止める術は持たない。 を巡ってという名目上、「私の為に争わないでっ!」とでも言えば止まるだろうかと考えてはみたのだが、 「……私のキャラじゃない……」 自分で思って寒くなった上に、言った所で止まるハズもない。 とりあえず、被害に合わないように、少し二人から放れることにした。 「そろそろ限界だろ? Give up したらどうだ?」 「まだ、ま……だ……」 バタンッと成実が倒れた。 その手から、猪口が転がり落ちる。 二人の勝負の方法は、花見らしく飲み比べ。どちらも酒には結構強いので、そこら中に酒瓶が転がっている。 「おおーーーーーーーっ! 筆頭の勝ちだぜっ!」 「流石政宗様だ!」 決着が着いたところで、は回りにいた人数人に、成実を介抱するように言付ける。下手すると放って置かれるかもしれないからだ。 「政宗大丈夫?」 「I'm OK. Honey.」 「…………」 据わった目に、呂律の回らない言葉で大丈夫だと言われても信じれるはずもない。 本人はきちんと話しているつもりだろうが、話せてはいない。 「全然大丈夫に見えないんだけど」 「Ha! 酔ってねえから大丈夫だ」 酔っ払いは皆そう言う。 「いや、あの量は飲みすぎでしょう。横になった方がいいって」 「Okey」 珍しく素直な政宗に呆気に取られたが、その後の行動でやはり、政宗は政宗だったと思った。 政宗は、ゴロンっと横になった。 それも、の膝の上にだ。 「ちょっ! 政宗っ?!」 抗議しようとも、政宗はすでに眠っていた。 恥ずかしいのは恥ずかしいが、相手は酔っ払いだし、まあいいかとそのままにしておくことにした。 終 戻る 同じようなお題だったので、まとめさせて頂きました。 卯月 静 (07/07/10) |