【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】番外編 嫉妬
顔も良く、教養も有る。その上、金と地位もあるとくれば、モテない方がおかしい。 その証拠に、の想い人である伊達政宗はモテる。 政宗がのことを誰よりも大切に思い、唯一無二の女性だということは周知の事実。 そのために、大っぴらにアプローチしてくる女性は少ない。 しかし、それで政宗がモテないといくことにはならない。 戦国の世だからなのか、それとも元々の性格からか、妾でもよいからと政宗に言い寄ってくる女も今だにいる。 もちろん、政宗は相手にはしていない。それでも、にしてみれば十分不安に思う材料にはなる。 政宗がモテるのは分かってはいたし、実感もしたのだが……。 「政宗様ったらぁ〜。最近つれないんですもの、私寂しい〜」 「前みたいに遊びましょうよぉ〜」 ベタベタベタベタベタベタと政宗に触って、甘えたような声を出す。 今その目の前にがいるというのに、女達は何も気にしていない様子だ。いや、むしろ見せ付けるためにやっているのかもしれない。 それ以上に、政宗が満更でもないように思うのは、自分があの女たちが嫌いだからだろうか……。 「……政宗。私先に行くから……」 は自分の言い方がひどくトゲトゲしいものだと感じた。 それでも、政宗の返事も聞かず、歩を進める。 別にどこかに行こうとしてたわけでもなければ、何かを買いに城下に来たわけでもない。 只単に、いつものお忍びデートだ。 先に行くといっても、きっと政宗にはが何処に行くのか分からないだろう。それでも、は歩を止めない。 何より、あの場に居たくなかった。 いつの間にか原っぱにでていた。風が吹き抜ける原っぱの真ん中には大きな気が立っている。 はその木の側までいき、その根元に座りこんだ。 があの場を立ち去ったことで、あの女性達は自分達が勝ったと思っているかもしれない。ひょっとしたら、自分をネタに嗤っているかもしれない。 「政宗のバーカ」 呟きながらも一番バカなのは自分だと思った。 最初は相手の幸せだけを願った。傍に居れなくても相手が幸せならいいと願った。 だが、その後は傍に居たいと思ってしまった。 そして、どうして人の欲には際限がないのだろうと思うのだが、自分だけを見て欲しいと思ってしまった。 あの瞳に他の女性を写して欲しくない。触れて欲しくない。 そう思ってしまったのだ。 「誰がfoolだって?」 後ろから声が聞こえたが、は驚かない。 「もう、あのキレイな人達とのおしゃべりはしなくていいんだ?」 「…………jelousyか」 声が面白がっている。いや、嬉しそうとでも言った方が正しいか。 もちろん否定はしない。嫉妬してたことは事実だ。 「お前がやきもち焼くとはな」 「……うるさい……」 政宗はの隣に腰を下ろしたが、は下を向いていて顔は見えない。 の顔が政宗に見えないのと同じように、は政宗の顔が見えなかったが、その声できっとさぞ嬉しそうな顔をしているのだろうと思った。 「普段は俺が嫉妬する側だから、される側になると嬉しいもんだな」 政宗の意外な言葉には思わず顔を上げて政宗をみた。 政宗の表情はの予想通り嬉しそうだったが、今はそれどころじゃない。 「政宗が……ヤキモチ?」 「知らなかったか? お前が伊達の連中と楽しそうに話してるのを見るたび邪魔してやろうかと思う」 「いや、だって伊達の人達にはお世話になってるし」 「それでも、他の男に笑顔を向けて欲しくねぇんだよ」 分からないでもない。というか、今さっきのは心境は正しくそうだ。 「うん。でも、私が好きなのは一人だけだから」 「ほぉ。Who is he?」(そいつは誰だ?) 政宗はニタニタと笑っている。きっと答えが誰なのか分かっているはずだ。 だが、政宗はそれを言う気はないらしい。 「し、知らない!! 自分で考えればっ」 ここで負けてはいけないと、はそれが政宗だとは告げない。 「じゃあ、俺ってことで決定だな」 「御自由に…………」 といったものの、の想い人が政宗であるということは、政宗自身が良く知っていることだろう。 それでも、素直に言うのは面白くなかったから、言ってはやらなかった。 眉目秀麗なお殿様でも、やはりヤキモチは焼くのだと聞き、は少し嬉しかった。 そして、自分を一番に想ってくれているのだと知って、さっきのことも忘れることにした。 終 戻る ユキ様のお題『嫉妬』でした。 卯月 静 (07/07/15) |