【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】

番外編 桜





 政宗に突然「いいモン見せてやる」と言って連れて行かれた。
 場所は裏庭。

「政宗? まだ?」

 着いてからのお楽しみということで、は目隠しをされていた。
 もちろん、一人ではあるけないから、政宗が手を引いてくれているのだが、目隠しをした女が手を引かれて歩く図というとなんだか怪しい気もしないでもない。
 いや、むしろ怪しい。だが、ここは城の敷地の中。
 誰かに見られたところで、政宗の御ふざけかと思うだろう。
 もしくは、「政宗様にはそういう趣味が?!」とかって思われるかもしれない。
 そんなことは置いといて、は何を見せられるのか、皆目検討もつかない。
 変な物を見せられたらどうしようと思うが、その変な物でさえ想像できないのだから、ただただ手を引かれてついて行くだけだ。

「着いたぞ」

 やっと目的の場所に着いたらしい。
 そんなに歩いてはいないのかもしれないが、目隠しをされたにはかなり遠くにきた錯覚を起す。自分がどれくらい歩いたのか分からないからだろう。

「わぁ…………」

 目隠しを取ってもいいといわれ、目隠ししていた手拭いを取る。
 そして、目の中に飛び込んできた光景を見て、思わず感嘆の声が上がる。

「どうだ?」
「すごい、キレー…………」

 は惚けてしまって、独り言のように、返事を返す。

 目の前にあるのは鮮やかで艶やかに咲き乱れる桜。
 満開ではないが、七分くらいは咲いていて、鑑賞にはもってこいだ。
 風ふくと、それにあわせて数枚の花びらが舞う。

「城にこんな場所があったんだ……」
「ああ。知ってるヤツは少ねえがな」

 桜の木自体は一本しかたっていない。
 周りは他の木はあるが、桜らしい木は無かった。
 だが、この桜はかなり大きく、一本でかなりの存在感を放っている。

「ここでお花見とかしたら楽しそうだよね」

 現代ではそれほど花見をした経験はない。
 大学の友人と大学の敷地内にある桜の下で昼食を食べるくらいはしたが、いかにも花見というか、桜の下で宴会と言う物はやったことが無かった。
 だからなのか、もしくはただ桜=花見という図式が出来上がっているからかは分からないが、この美しい桜を見ながら、皆でワイワイ宴会をするのはかなり楽しいに違いないと思った。
 しかも、ここなら、どんなに騒いでも誰にも迷惑にならない。

「花見ねぇ……」

 は桜に見惚れ、政宗の言葉は聞こえていなかった。
 自分の言葉にが反応しなかったことに、さして気にした様子もなく、隣にいるをみる。
 はあり変わらず目を輝かせて桜に見入っている。
 どうやら、の心は目の前の桜に奪われてしまったらしい。
「政宗?」

 気付くと、が政宗の顔を覗き込んでいた。

「悪ぃ。ボーっとしてた」

 そのように答えた物の、実際はボーっとしていたというよりも、に見惚れていたと言った方が正しいだろう。
 奥州の王とあろうものが、普通の女に見惚れることがあるなどと、誰が思うだろうか。
 それと同時に、政宗が好きな女性に見惚れていたとしれば、成実あたりはからかいのネタにしそうだ。
 それでも、見惚れてしまったのだから仕方が無い。

「本当にキレイだよね」
「そうだな。本当に綺麗だ」

 政宗の返答が桜を指したものか、見惚れていた相手を指した物か。
 それは政宗のみぞ知る。


終 戻る

ミウ様のお題。実はこのあとにお題の花見に続いてたり。
卯月 静 (07/07/22)