【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】

番外編 ライバル





 対面する青と赤の侍。
 双方の視線の間には今にもバチバチッと音がしそうな程の火花が飛び散っているのが見える。
 正しく一触即発。
 二人を眺めながら、どうしてこんなことにと、は頭を抱えていた。
 そもそもの原因は政宗だ。懲りずに小十郎に黙ってを連れて城下に遊びに来た。
 帰ればこっ酷く怒られることは必至だが、最近まったく城下に来てなかったから、偶にはいいかと止めもせず、素直についてきた。

「やっぱ、黙って城下に来るの止めた方がよかったかな……」

 城下についてしばらくは色々な店を見ていたのだが、小腹も減ったしということで、近くの甘味屋に入った。

「どれも美味しそう! やっぱここは無難に団子かなぁ。でも、大福も美味しそうだし、おしるこでもいいな。」
「どうせ、金は俺が出すんだ、遠慮しねえで好きなの頼めよ」
「それは分かってるんだけどね。食べたいの全部食べちゃうと次来るときに楽しみなくなっちゃうから」

 は答えつつも、品書きからは目を離さない。
 政宗が払ってくれるのだから、品書きの端から端までとかやったところでお金が足りなくなるなんてことはないのは分かっている。
 だが、ここで全部を制覇してしまうと、次の楽しみが無くなってしまう。ここは二種類くらいにして、次また別の物を頼むのが無難だ。

「よし! 決めた! お姉さーん」

 散々悩み、ようやく決定。は嬉々として頼む。
 その様子に政宗は呆れもするが、同時に微笑ましくも思う。

「ここが噂の甘味処でござるな!!」
「ちょっ、旦那、声大きいって、ほら、注目集めちゃってるじゃん」

 ささやかな幸せ気分に浸っていたが、聞きなれた声に雰囲気を壊された。
 甘味屋にしては珍しく男の二人連れ。町人の服装はしているが、忘れもしないあの男。
 甲斐は武田の若虎。真田幸村。

「政宗? どうしたの?」

 が声をかけるが耳には入ってないらしい。
 この奥州に堂々とくるなんて、単に莫迦なのか、度胸があるのか。
 どっちにしろ、この機会を逃す手はない。

「よう。久しぶりだな」
「げっ!」

 幸村の隣に居る男――猿飛佐助に違いない――は嫌そうな顔をする。

「俺の国に堂々と来るたぁ、随分と余裕だな。偵察にでもしにきたか」
「某等は単にここへ甘味を食べにきただけでござる! 偵察ではござらん」
「そーかい、そーかい。だが、ここで俺と会ったんだ。はい、そーですかで帰れると思ってはいねえよな」

 口元に笑みを浮かべた政宗は腰の刀に手をかける。
 を連れていくときは万一のことが無いように、いつものように六振りの刀を指していた。それがこんな場面で役に立とうとは。

「そちらが、その気なら某もお相手いたす!」

 幸村も中々好戦的で、政宗の言葉にすぐに乗ってきた。
 そして、冒頭のの心境に到るわけである。
 は目の前の赤い青年とその隣の青年が政宗とどういう関係にあるのかは知らない。そして、彼等が武田の者であるということも知らない。
 だが、一つだけいえるのは、このままだと戦闘が始まり、この店がめちゃくちゃになるだろうということだけだ。
 もう一人の青年が止めてくれればいいが、彼にはそんな気は全くないらしい。やれやれっといった感じで諦めているのがよくわかる。

「Are you ready?」
「いざ参る!」

 バシャーッ!!!

「「?!」」

 これで店も終りか、と店主が思った次の瞬間。二人の青年に思いっきり水が掛けられた。
 掛けたのはもちろん。手には水が入っていただろう桶を持っている。

「場所を考えろ、莫迦二人。二人がここで戦闘始めたら店めちゃくちゃになるでしょ! やるなら外でやんなさい、外で」

 当の本人達はポカーンとしているが、周りの野次馬からはヤンヤヤンヤの歓声が飛ぶ。

「申し訳ない……」
「sorry...」

 謝る二人を見て、は溜息を一つつく、そして、店主に床を濡らしてしまったことを詫びるが、店主としては騒ぎを未然に防いでくれたことでなにも気にしないということだった。

「興冷めだ。決着はまた次回だ。次は容赦しねえ」
「某も次は全力で行くでござる!」

 次の機会には是非自分のいないところでやって欲しい。

「ごめんねぇ〜。うちの旦那が迷惑かけて」

 佐助はに謝る。としては、謝るくらいなら、止めて欲しかったと思わないではないが……。

「ほら、旦那も謝って」
「うむ。申し訳ない。今度からは気をつけるでござる!」
「政宗が喧嘩売ったみたいなものだから、気にしなくていいですよ」
「手前ら。さっさと甲斐に戻れ」

 自分をのけ者にして、会話をしていたことが気に入らなかったらしく、政宗はに後ろから抱きつき、シッシっと二人を払う。

「はいはい。今回は大人しく帰りますよ」
「それでは失礼するでござる!」
「じゃあね〜、ちゃん」

 何で名前を知っているのかと問いただす前に二人の姿はもう無かった。
 二人が城に戻って怒られたことは言うまでもない。


終 戻る

とーる様のリクエスト。ライバルと言って思いつくのが幸村だけだったので。
卯月 静 (07/08/07)