【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】番外編 呟き
がいると、部下達のやる気が増えるからと、道場の隅で見学していた。 ある兵曰く。男ばかりの伊達軍において、は伊達軍の華だそうだ。 伊達に女がいないわけではないが、自分達の仕える頭の女がいると、気合の入りようが違うようで、しかも、例の事件以来、を尊敬の眼差しでみる上に心酔すらしつつあるものが増えたらしい。 そんなが見ているのであれば皆頑張ろうと精進する。 そんな中、ある日の言った言葉で『武道大会in伊達軍』が開催されることになった。 「そういやさ。伊達軍で一番強いのは政宗だとして、その次に強いのって誰?」 思ってもみなかったの質問に聞かれた政宗も首を捻る。 今まで考えてたことが無かった。 政宗の次に強いのが誰かといえば、今頭に浮かぶのは言わずもがな伊達の三傑。小十郎、成実、綱元。 だが、その誰が一番強いのか知らないし、思ってもなかった。 「俺も知らねえなぁ」 面白いことを思いついたとばかりに政宗は武道会をすることをその場で発表した。 普通だったら反発するヤツが居そうなものだが、そこは伊達軍。皆ノリノリで盛り上がっている。それは自分の実力がどれくらいなのか知りたいと言うのと、同時に伊達で政宗の次に強いのが誰か気になっていた為だろう。 方法は一本勝負の勝ち抜き戦。やり直しはない。 「Are you ready guys?」(準備はいいか、野郎共) 「Yeaaaaaaaaaaaah!!!!」 「Okey」 伊達軍の盛り上がりは最高潮だ。 まるでこれから喧嘩が始まるようなノリである。しかも、この道場で鍛錬しているのは血の気の多い若者が多い。そのためか、こういうことには積極的だ。 「……一番になった人には何かしてあげようかな?……」 ポツリと呟いただけだったが、の声は全員に聞こえたらしく、一瞬シンッっとなる。 そして、爆発したように、騒ぎ出す。 「マジっすか!?」 「おおーっ!! 姐さんから褒美が出るってよ!!」 「こうなりゃ、死ぬ気でやるぜ!」 皆の反応には驚く。自分はそんなに大変なことを言ったのだろうか? 褒美といっても大したものはあげれないから、それほど喜ばれると困る。先ほどの発言はこの大会が自分の言葉が元で行われるようになったから、せめてと思ったのだが、尚更火をつけてしまったらしい。 火に油を注いでしまったらしい。 「ちゃーん。何してくれるのー?」 成実が軽い調子で、だが、確実に皆に聞こえるように声を張り上げる。 そして、視線が成実に集中したあと、に集中する。 期待の持った目で見てくる。これでは生半可な褒美ではいけないかもしれない。 「ほら、早く答えてやれよ」 隣の政宗は人事だと思って、ニヤニヤとしつつ、を急かす。 「えっと、祝福のキス……と……か……」 「なにぃ!?」 「オオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」 政宗は慌ててを見る。 コイツはなんてことを言い始めるんだ。 ここが他の国であれば「キス」が何か分からなかっただろう。しかし、ここを治める者は異国語を使っている。 「キス」という単語をバッチリ知っていた。 政宗に対し、他の者はやる気が更にあがったらしい。 だが、政宗よりも、誰よりも驚いているのはで、 「あれ? 決定なの? あれで……」 まさか冗談半分でいったものが通ると思わなかった。てっきりそんなものはいらないと言われるのだと。 「分かってはいたけど」 「結局は」 「こうなるんだよな」 以上のセリフは大会でそこそこ良いところまでいって、負けてしまった伊達の皆さん。 これから行われるのは最後の試合。この試合で誰が二番目に強いのか決まる。 で、皆が先ほどのように言ったのは、予想通りというか、なんというか、最終の試合の組み合わせが、竜の双翼だったからだ。 知の小十郎と武の成実。皆が予想してた組み合わせ。 少しくらい期待を裏切ってくれてもいいのに、と思わないではないが、やっぱりこうなるのがしっくりくる。 「やっぱり小十郎が相手か。というか、小十郎ってこういうの興味ないと思ってたけど、やっぱ男だったんだ」 「莫迦なことを言ってんじゃねえ。手加減しちゃアイツ等のためにならないから、全力でいったまでだ」 成実の冷やかしをバッサリと切り捨てる。 成実は「おーこわ」と言いつつ肩をすくめる。 恐いといっても、この場で一番恐いのは政宗だ。 の発言で、勝者にのキスが与えられることになり、そのことに不満らしい。 が、ここで中止しては、あとで何があるか分からない。ひょっとしたら、反乱が起きてしまうかもしれない。 今の盛り上がりの伊達軍を押さえるのはかなり大変なのだ。それならばと、政宗は勝者が決まった時点で乱入してやろうと思っていた。 不機嫌なのは不機嫌だし、気に食わないが、それでも、小十郎と成実のどっちが強いのか気にはなっていた。だから止めなかったのかもしれない。 試合が始まったが、どちらも動こうとしない。それもそうだろう。二人の実力は拮抗している。 ひょっとしたら、勝負は一瞬かもしれない。 「くっそぉ……」 長い膠着状態に痺れを切らした成実が仕掛ける。 中段に構えたまま、小十郎の喉に向かって突く。 が、小十郎は半歩下がってそれを裂け、木刀で成実の木刀を叩く。 カツンッという音がし、成実は体制を崩す、小十郎はその機を逃さず振り上げて落とす。 決まったか、と思ったが、崩された木刀を片手だけで持ち、小十郎の足を払った。 踏み込む寸前だったために、辛うじてその一閃を避ける。 そして、また膠着状態に戻った。 「すごい……」 は感嘆の声しか出ない。 種目は違えど、全国レベルの試合は見たことがあるし、成年の試合も見たことはあった。 が、二人のはそれとは全く違うレベルだ。 こんな試合をする者はきっと現代には居ないだろう。 「ちっ。もう少しだったのになぁ」 「そう簡単にやられはしねえ」 悔しがる成実に余裕の小十郎。いや、成実だけでなく、小十郎も少し息が乱れているようだから、見た目ほど余裕ではないのかもしれない。 「今度は俺からいくぜ」 言うや否や、小十郎は間合いを詰める。そのまま、胴を狙いに行くが、辛うじて成実は自分の木刀で防いだ。 安心したのも束の間、直ぐにそこから今度は先ほどの成実のように、しゃがんで木刀で足を払う。 「うわっ!」 あたりはしなかったが、早かった為に避ける時に体勢を崩し、手を付いてしまった。 すぐさま立ち上がろうとしたが、それは叶わない。 成実の喉元に木刀の切っ先が突きつけられていた。 「まいった。俺の負けだ」 「オオーーーー! 小十郎様が勝ったぞ」 成実が負けを認め、会場は一気に沸く。 「Congratulations. 小十郎」(おめでとう) 「有難う御座います」 「ほら、ちゃん。小十郎に祝福のきすをしなきゃ」 自分が勝っていれば、きっと政宗の視線に負けたであろう成実は、勝ったのが自分でなかったために、敢えて煽る。 としては、別に小十郎にキスをするのがイヤではない。どうせするといっても頬にだし、小十郎のことは兄の様に思っている。 が、自分の恋人からの視線が痛い。 「優勝おめでとうございます。さすが小十郎さん」 「ああ、ありがとうな」 犯人は成実だろうが、周りからキスコールが起こっている。 は困ったように、小十郎に視線を向ける。 小十郎は溜息をつき、そして、に言った。 「祝福のきすとやらは俺は事態させてもらうぜ。それは一番強いお方にされるのが相応しいだろう」 「へ? 勝ったの小十郎さんでしょ?」 「ああ、だが俺は二番目になっただけだ。一番は別にいるだろう」 と言って、の後ろに視線を送る。 は、そういうことか、と理解した。 そして、小十郎はそのまま道場を出て行った。 「小十郎のヤツ。上手く逃げやがってずりぃ……。折角面白いものが見れると思ったの……に……」 言葉の途中で成実は背筋に寒いものを感じた。 「言ったのはだが、原因作ったのと、煽ったのはお前だよな、成実……」 竜が地を這うような低い声。 「げ……」 「敗者には仕置きが必要だよなァ」 身の危険を感じた成実は、政宗が六爪を構えた瞬間、脱兎の如く逃げ出した。 そして、お約束どおり、城中に成実の悲鳴が響いた。 終 戻る 和希様のリクエストです。呟いた結果がこの大会。 卯月 静 (07/08/15) |