【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】

番外編 初夏





 花も散り、木々には青々とした葉が繁り始めている。
 寒かった奥州も大分温かくなってきた。
 まだ、夏にはなっていないから、過ごしやすい。
 木々から差し込む太陽の光は正しく、もう直ぐ夏が訪れることを暗示しているようである。

「Hey, Honey. ここで何してんだ?」
「あ、政宗。星見てたんだけど?」

 縁側に座っていたは体の向きは変えず、仰け反るような体勢で声をかけた政宗を見る。
 その体勢キツクねえか? と問えば、「キツイ」と言って、元の体勢に戻る。そして、今度はきちんと体ごと振り向いた。

「ずっごい星が綺麗だからさあ。政宗も一緒に見ようよ」

 は政宗の腕をひっぱり、自分の隣に座らせる。
 は無意識としての行為だろうが、政宗としては少し意外だった。
 別にが星を見ていたことや、隣に座らせたことではない。それは全く不思議でもなんでもない。
 意外だったのは、が自分から政宗に触れたことだ。
 普段からに触れることは多い。だから、スキンシップは小十郎が嗜めるくらい過剰だ。その自覚は政宗にはある。
 よく理性が飛ばないな、俺。とか思いつつも、毎回を抱き込んだり、髪に触れたりしている。
 それに反してから政宗に触れることは少ない。
 それは普段、政宗からに触れているから、が自ら触れる必要がないと言うのもあるのだろう。しかし、それ以上に彼女は人前でのスキンシップがハズかしいようだ。
 それは、日本人特有の物と言ってしまえばそれまでだが、偶には彼女から触れてほしいと思わないでもない。
 こうも、自分ばかりだと、が自分に好意を寄せているのは勘違いなのではないかと思ってしまう。
 だから、が無意識と言えど、触れたことは嬉しかった、が周りに誰も居なかったせいか、とも思う。これを人前でやってくれれば、余計な虫を簡単に払えるのにとも思う。

「――でね、って聞いてた?」
「sorry. 何の話だった?」
「だからね、此処なら星が綺麗に見れると思ったわけ。で、普段見れない星座とか見れるかなーっとか思ってたら」

 そこまで言って、は夜空を見上げる。
 夜空には星が無数に瞬いている。
 そう、無数に。

「多すぎて分かんないんだよね」

 空気汚染とか、夜遅くまで明かりがついてるとかで、の時代の夜空で綺麗に星が見れる地域は限られていた。
 の住んでいたところは、実家も含めそれほど星が見えない地域ではなかったが、それでも明るい星くらいしかはっきり見えない。
 だが、灯もそんなにないこの時代であれば、きっとプラネタリウム並に見れるのに違いない、そう思っていたのだが。
 結果は敢無く失敗。
 星が多すぎて、どれが、普段見ていた星かすら分からない。

「夏の大三角くらいなら見れると思ったんだけどな」
「Summer Triangle of stars か……」

 釣られて政宗も見上げるが、確かにこの星の中からそれらしいものを見つけるのは難しいだろう。
 そもそも、政宗にとってはの見ていた空がどのような物だったのか知らない。
 政宗の知っている夜空はずっとこれなのだ。

「まぁ、いっか。そこまで星に詳しいわけでもないし、これだけの星を一緒に見れたってこともすごいことだし」

 未来から来たと、この時代を生きる自分。その壁が一瞬見えたような気がしたが……。

「政宗、どうかした?」
「いや、何でもねぇ」
「そう?」

 政宗の雰囲気が僅かながら変わったことを察したのか、は尋ねてきたが、何でもないといえば、再び星を見上げる。
 よほど、この星空を見れるのが嬉しいのか、目がキラキラしている。

 その瞳は、夜空に輝くどの星よりも輝いて見えた。


終 戻る

茉莉様のリクお題。初夏ということでしたが、今はもう残暑……。
卯月 静 (07/08/28)