【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】

番外編 永遠なんて時はないけれど





 桜の花が咲き始める季節。
 は庭に出て、じーっと桜の木を見ていた。
 まだ、肌寒い奥州では、蕾こそつけてはいるが、まだ花が咲くには時間がかかるだろう。咲いては散り、そして、また咲く。
 桜の花は、人の出会いと別れのようなものだと、今までは考えてもいなかったことを思ってしまった。

「What are you doing?」(何をやってんだ?)

 後ろからかけられた声の主は、振り返らずとも分かる。
 この奥州で異国語を話す男性は一人しかいない。

「桜を見てた」

 振り返ることもせず、じっと桜を見つめたまま答える

「まだ、花は咲いてねえぜ」
「うん」
「花見には早ぇだろ」
「そだね」

 政宗の問いに心此処にあらずといった様子で答える。
 何かあったのだろうか……?
 政宗がそう思ったと同時に、がポツリと話す。

「また、この時期がきたんだなぁって、思って……」

 の目線は相変わらず桜を見ている。

「桜の蕾が膨らむと、もう別れの時期なんだなぁって思って寂しくなるんだよね」

 政宗には『桜=別れ』という意味が分からない。

「ずっと一緒。ずっと同じなんてことはないんだなぁって実感するんだ」

 でも、の後ろ姿が酷く寂しそうで、儚くて……。
 そういえば、コイツは向こうの家族や友人なんかと離れてしまったんだよな。
 と考えてたら、政宗は無意識にを抱きしめていた。

「政宗?」
「桜の蕾がなんで別れに繋がるのかは俺には分からねえが……。俺はお前と離れたりはしねえし、お前が離れたいっていったって放さねえ。ずっと一緒にいてやる。この日常をずっと続かせてやる」
「……ありがとう……」



 桜の花が散るように、人との別れは必ずくる。
 でも、花は散っても木は残るように、別れても、その人との思い出は心に残る。
 出会いがあれば別れがくるのは仕方の無いこと。
 でも……。

 もし神様がいるのなら。

 永遠に限りなく近い時間でいいから。

 出来るだけ永く、あの人と一緒に居させてください。


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卯月 静 (07/10/10)