【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】

番外編 お節料理





 年末といえば、大掃除に、新年の準備に大忙し。
 それは、この戦国の世といえども同じこと。むしろ、現代よりも、新年を祝うというのは、力が入ってるのではないだろうか。
 しかも、城となれば、大掃除をするといえば、大仕事だ。
 部屋等は城の者がやってくれるから、成実は特にすることがあるわけではない。
 先ほどまで、箪笥の中を整理していたが、それも終わってしまったし、刀の手入れは昨日に終えてしまった。
 皆忙しそうに走り回っているので、邪魔をするわけにも行かない。

「……腹減ったな」

 少し小腹が減ってきたので、炊事場で何かを貰ってこようとそちらに足を向けた。
 今であれば、きっと正月の料理の仕込みでもしているだろう。
 入り口の取っ手に手をかけたところで、中で誰かがいるのが分かった。
 話声が外まで聞こえている。

「やっぱり、駄目?」
「駄目だ」

 声の主は、どうやら、成実の主である政宗と、その想い人であるのようだ。
 政宗の趣味は料理だから、きっと正月の料理をの為に作っているのだろう。
 微笑ましいな、と思い、邪魔することになるからと中に入るのを躊躇っていると、次に聞こえた言葉に固まった。

「……お願い、政宗。もう、我慢できないの……」

 (おいおいおいおい。ちゃん、いったい何言い出してるの?!)
 一瞬、桃色な想像が頭を過ぎるが、首を振って否定する。
 ここは炊事場だ。流石の政宗でもこんなところで……。
 とは思うものの、成実は音を立てないように、そぉっと、耳を扉につける。

「さっきもやっただろ」
「だって……政宗、上手なんだもん」

 (さっきもって……)
 政宗はのことを大切にしている。それは横から見ていてよく分かったし、よく我慢できると感心していたのだが。
 やはり、政宗にも我慢の限界が来たということだろうか。
 (でも、炊事場でしなくてもさぁ……)

「お願い。駄目?」
「…………成実辺りにでも見つかったら、騒ぐぞ、絶対」
「……片付けで忙しいと思うから、誰も来ないって……ね?」

 確かに、政宗とが炊事場でそんなことをやってたら、成実は騒ぐ自信はある。
 (しかし、ちゃんって意外に積極的……)
 ギシ、という音に気づき、視線を背後に向けると、小十郎が来ていた。
 政宗にばれては大変だと、口に人差し指を当てて、小十郎に合図を送る。
 訝しげな顔をしつつ、小十郎は音を立てず、成実の傍まで来た。

「お前、何をやってるんだ?」
「いいから、静かに。今炊事場に殿とちゃんがいるんだって」
「正月の準備か。なら、この小十郎もお手伝いを」

 手伝おうと扉を開けようとすると、成実に引っ張られ、止められた。

「ちょっ、駄目だって、今二人っきりでいいとこなんだからっ」
「いや、だがっ」
「少しでいいから、欲しくてしょうがないの」

 振り切って、中に入ろうとするも、聞こえてきた声に、小十郎は固まった。

「なっ……」
「だから、いいとこだっていっただろ」

 成実は笑いながら、絶句している小十郎に声をかける。

「……仕方ねぇな。そんなに、物欲しそうに見られたんじゃな」
「ホントッ!」
「ほら、口開けろ、入れてやるから」

 そこまで聞いて、小十郎はスクッと立ち上がる。

「小十郎?!」
「政宗様の我慢は存じている。だが、このような場所では!」

 成実が止める間もなく、扉を開けて中に入る。

「政宗様!!!」

 ガラッという音と共に開いた扉の先には、体を絡みつかせた、政宗との姿が……ではなく、箸を持って、それをの口元に運んでいる政宗と、口を開けて、それを食べようとしているの姿。

「……お二人は、何を……?」
が、どうしても、もう少し味見してえってゆーから、食わせてやってたんだよ」
「だって、政宗の料理美味しいんだもん。作ってるとこ見てたら、食べたくなっちゃってさ」

 は少し恥ずかしそうに、答えている。
 政宗の料理は上手い。だから、が欲しがるのも無理はないが……。

「そう……ですか……」

 小十郎は深く溜息をつく。想像していたことでなかったということを、悲しんでいいのか、喜んでいいのか、複雑な気分だ。そもそも、途中で止めようとした小十郎であるが。

「で、お前と成実はそこでこそこそ何やってたんだ? 成実はともかく、小十郎、お前まで盗み食いに来たってわけじゃねえだろ」

 いることがバレてしまった成実は、ビクッと肩を震わせ、渋々姿を現した。
 ビクついたのは、政宗に声を掛けられたからではなく、何やら嫌な予感がしたからだ。

「いやぁ、することなくってちょっと休憩にね」
「ほう。休憩がてらに盗み聞きたあ、いい身分だな」

 (バレてる……)

「お前の想像通りだったら、どうするつもりだったんだ? あァ?」
「いや…・・・その……。あーそうだ、俺綱元に呼ばれてたんだ! じゃ、殿、ちゃんまたね」

 政宗に詰め寄られ、逃げるように成実は去っていった。

「手伝いは要らないようですので、私もこれで失礼致します」
「ああ」

 炊事場を出る小十郎に、政宗は声をかけた。

「小十郎。心配するほど俺は限界にはきてねぇよ」

 政宗の言葉に、振り向いた小十郎は、苦笑で返す。
 先ほど、小十郎がなぜ、入って来たのかも分かっているらしい。成実のことがばれているのなら、当たり前ではあるが。

「政宗、さっきのどういう意味?」

 成実と小十郎に投げかけた言葉の意図が読み取れず、首をかしげているに、政宗は耳打ちをした。
 もちろん、そのあと、が自分のこれまでの発言に真っ赤になったことは言うまでもない。


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明けましておめでとうございます。
昨年はThe Crystal Doorに来て頂いて有難うございました。
今年も、卯月共々、御贔屓にお願いいたします。
今年の皆さんの初夢に政宗様が出てきますように。
卯月 静 (08/01/01)