【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】番外編 星に願いを
日も落ち、空にいくつかの星が見え出していた。 は朝から、部屋で色の着いた和紙を長方形に切っていた。切った長方形の和紙には上部に穴が空いており、そこにはこよりが通してある。 の周りには、長方形の形をした物だけではなく、網状の物や、吹流し、星型などなど様々な物がある。 「Hey, honey. 何してんだ?」 「あ、政宗。丁度いいとこに。城の人皆呼んでくれた?」 「ああ、だが、一体……」 「ちゃん、こんなモンでいいー?」 何をするのかと再び尋ねようとした政宗の声は、成実の声によってかき消された。 しかも、は成実の声のする方、つまり部屋の外へ出て行ってしまった。 彼女が楽しそうにしているのだから、好きにさせてやりたいし、別に咎めるつもりはない。だが、見慣れぬ物を作っているとあれば疑問が湧くのも当然だろう。 仕方なく、の後に続けば、庭には笹が立っていた。 「うんうん、ありがと。いい感じ」 は立っている笹を見て上機嫌だ。 そして、部屋に戻ると、先ほど作っていた和紙と、まだ何も切っていない和紙を廊下に持ってきた。 そして、躊躇もなく、その中の長方形の物以外を政宗や成実、そして、成実の手伝いをしていたであろう小十郎や綱元に渡した。 「はい。これ笹の枝の何処でもいいからつけて。……こんな感じに」 見本として、は、網状の和紙を笹の枝につける。 成実なんかは何の疑問を抱かずわくわくと言った様子でつけているが、小十郎や綱元はわけが分からないまま着けている。 「七夕祭りしようかと思って」 「七夕?」 七夕といえば、大陸の方の祭りごとだ。こちらに伝わっていないわけではないが、誰しもがする行事ではない。 「あれ? 知らない? 成実が知らなかったから、皆知らないかなとは思ったんだけど」 曰く、色んな形に切った紙を笹につけ、長方形に切った短冊に願いごとを書きそれも笹につける。そうすれば、願い事が叶うらしい。 「面白い行事だな」 「丁度今日は晴れてて、天の川も見えるし、織姫と彦星もデートの最中だろうね」 「一年に一回しか会えなくて、よく我慢できるもんだと思うがな」 「それは私も思う」 「俺だったら、なんとしてでも会いに行くけどな」 「政宗だったら、本当にやりそう」 そういったはクスクス笑っている。 「はい、政宗の分の短冊」 短冊と筆を渡され、周りを見れば、いつの間にか集まった伊達の人々が思い思いに短冊に何かを書いて吊るしたり、に教えられたのだろう飾りを作って吊るしたりしている。 「アンタは書かないのか?」 「私はもう書いたもん」 そういって、笹の上の方を指す。上の方には一枚だけヒラヒラと短冊が風に舞っている。 「あんなトコどうやってつけたんだ?」 「んー。猫に頼んだ」 では届くわけもない場所。というか、政宗にだって届くわけもない。笹は立派で大きいのだ。 忍である猫がやったとあれば納得もできる。 「何て書いたか見てやろうと思ったんだけどな」 残念だといえば、は秘密だといった。 少し考えて、政宗はさらさらと短冊に記す。 「何て書いたの?」 「It's a seacret.」(秘密だ) 「ずるい」 「アンタが教えてくれたら、教えてやってもいいぜ」 そういえば、は言葉に詰まる。知りたいが、自分のを言うのは恥ずかしいのか言おうかどうしようか葛藤しているようだ。 その様子を見ながら、政宗は勘解由にと同じ所につけさせた。 天空のお伽噺には興味はないが、こういう時間をと過ごせるのはいいかもしれない。彼女のことだから、きっと来年もすると言うだろう。その時は、自分も手伝おうと風に揺れる笹の葉と頭上の天の川を見て思う。 天に一番近いところには、二枚の短冊。 『政宗とずっと一緒にいれますように』 『I wuold like to live with her』 終 戻る 卯月 静 (08/07/05) |