【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】

番外編 感謝





 最近、政宗の様子が変だ。
 ピリピリしているだとか、不機嫌だというような物ではなく、不意に悲しそうなというか、辛そうなというか、とにかく、いつもの、強気な政宗ではない。
 と接している時は、特に何も変わったところはない。相変わらずを自分の傍に置き、放さない。それは今に始まったことではないが、最近はその頻度が増えているようだとは思っていた。

「小十郎さん、今いいですか?」

 政宗の様子が可笑しいことは、小十郎が気づいていないはずはないだろうと、思い、小十郎の元へ来た。

「ああ、どうかしたか?」
「あれ? 小十郎さんだけじゃなかったんだ……」

 てっきり、小十郎だけだと思っていたが、そこには、伊達の三傑が揃っていた。

「まあ、いっか。えっと、最近政宗の様子変ですよね?」

 成実と綱元の二人なら、聞かれて困るでもなし、とはストレートに尋ねた。
 それに固まったのは、伊達の三傑。それも無理は無い話で、先ほどまで、そのことについて話していたのだ。

「やっぱり、ちゃんも気づいてたんだ」
「うん、まぁ……」

 彼ら程長い付き合いではないが、やっぱり好きな人のことはいつも見ているわけで、少しいつもと違うことが数日続けば気づかないはずもない。

「もうすぐ、政宗様のお生まれになった日なんですよ」

 言うべきか? という視線を綱元に成実がおくれば、彼はあっさりと事の原因を言った。

「政宗の誕生日?」

 誕生日が近づいてきて、何故、あんなに落ち込む必要があるのだろうか? そう思っていると、今度は小十郎が説明し始める。

「政宗様が右目を失ってから、義姫様は政宗様に強く接された。政宗様のお生まれになった日になるたびに、義姫様のことを思われては、心を痛めておられる。何故、自分はここに生まれてきたのだろうとな」

 政宗が母親と折り合いが悪いのは聞いていた。だけど、彼の傷はが思っている以上に深いようだ。

「じゃあ、今年は政宗のバースデイパーティーしましょう!」

 皆で祝って、自分が生まれてきたことを喜んでいる者がいると知ってもらわなければならない。

「その、ばーすでいぱーてぃーってなに?」

 成実の質問に、少しばかり驚いてしまった。しかし、この時代は歳は正月に増えるものだから、そんな風習はないのだろう。
 は、説明をして、政宗の誕生日にバースデイパーティーを手伝ってもらうようにした。


「ほら、こっち」

 政宗は、に手を引かれて歩いていた。
 はにこにこと笑顔だ。いつもなら、そんな彼女を見て、政宗も笑顔になるのだが、今日ばかりはそうもいかない。
 目の前の女性が、ある女性と重なる。彼女に限ってあるとは思えないが、今は自分に向けているこの笑顔が、そのうち自分を睨みつける表情に変わるのではないかと、いらぬ不安を抱えてしまう。
 それでも、彼女の手を振り払うことができないのは、まだ笑顔を向けてくれている彼女を失いたくないからだろう。

「広間に連れてきてどうする気だ?」
「いいから、入って」

 連れてこられた先は、城で一番大きな部屋。かなりの人数が入れるため、お祭り騒ぎの好きな伊達軍は、この部屋で良く宴会をしていたりもする。だが、今日は別にそんな話は聞いていない。なにより、今日と言う日は、伊達の者達は政宗をそっとしておこうといつもよりも大人しいのだ。
 不思議に思いつつも、襖に手をかけ、一気に開ける。

「はっぴーばーすでい!! 筆頭っ!!」
「Ha?」

 開けるや否や、大声が飛んできた。わけが分からず呆気に取られている政宗を見て、は隣でクスクスと笑っている。

「今日が政宗の誕生日だって聞いて、お祝いしようかと思って」
「祝い?」
「うん。私のいたところじゃ、誕生日には生まれてきてくれてありがとう、っていうのをこめてお祝いするの」
「なんか、ちゃんとこじゃ、誕生日に歳取るんだってさ」
様の誘いで、伊達軍総出で用意したんですよ」

 綱元の言葉に、部屋を見渡せば、部屋はすっかり装飾が施されていて、宴会の様子だ。
 誕生日を祝われるなんて、慣れていないが、嫌な気はしない。むしろ、ここ数日の気落ちが嘘みたいになくなり、軽くなる。

「Thanks」
「いいえ、礼ならに。それと、誕生日には贈り物をするらしいので、一応用意させて頂きました」
「え? そうなの? 私聞いてない」
ちゃんはちゃんで用意してたじゃん。だから、これは俺達からってことで」

 誕生日プレゼントのことも勿論言ったが、彼らが用意してるとは思わなかった。意外だと思っていると、は成実にくるっと反転させられて、政宗と向き合う状態となる。

「どうせなら、殿が一番喜ぶ物の方がいいかなって思って、そしたら、やっぱちゃんかなって」
「え? ちょっ! 私がプレゼントッ!?」

 予想もしてなかった展開に、は慌てるが、成実は何処吹く風だし、更に小十郎もいい加える。

「丸一日執務については、しなくても、構いませんから、とお過ごしください」
「へぇー。さすが、分かってんじゃねえか。ありがたく貰っとく、そこの料理はお前等で食っていいから、俺の部屋に誰も来るんじゃねーぞ」

 満足した様子で、政宗はそう言い放つと、を抱きあげて、自室に連れて行った。
 先ほどの広間と違い、政宗の自室は静かだ。
 部屋に着くと直に下ろしてくれて、今、は政宗と向いあって座っている。

「で、アンタは俺に、present はねえのか? それともアンタも自分自身が present か?」

 それでもいいけどな、と言う政宗に、は赤くなる。

「あるっ! ちゃんと用意してるもん」

 いいながら、政宗に用意いていたプレゼントを渡す。

「お守り?」
「うん。私が作ったのだから、効力あるかわかんないけど、やっぱ、政宗には無事で居て欲しいし……」

 確かに、手作りらしく、所々から糸が見えている。それからは、一生懸命に作ったことがよくわかる物だった。

「裁縫が苦手ってわけじゃないけど、ボタン付けくらいしか普段しないから、なんか、下手でごめん」

 上手かと聞かれれば、そうとはいえないが、政宗にとって、そのお守りは何処の寺社の物よりも効果があるように感じられた。

「I always keep the amulet on one.」(どんな時でも、放したりしねえ)

 そういう政宗の表情がとても優しくて、は贈ってよかっかったと思った。

「あ、そうだ。言い忘れてた」
「なんだ?」

 政宗を真っ直ぐに見つめ、いろいろな想いを込めて言う。

「Happy Birthday. 生まれてきてくれてありがとう」


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卯月 静 (08/08/02)