【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】番外編 乱入者
政宗の趣味は料理だ。それは城中の人間が知っていることで、彼はよく、に作ってくれる。 別にそれがいやなわけではなく、むしろ嬉しいのだが、も女の子。好きな人に自分の手料理を食べて欲しいと思うのは当然なことで、できれば政宗に美味しいと言って貰いたかった。 別に彼女が料理が下手という訳ではない。ここに来る前は一人暮らしをしていて、自炊してたのだから、出来ることには出来るのだ。 だが、それは現代での話。電気どころか、ガスもないこの時代の火加減は、には中々なれないものだった。 喜多や猫に教わってはいるが、そう度々彼女達の手を煩わすわけにもいかない。できれば一人で出来るようになって、政宗に食べて貰いたい。 というのが乙女心なのだが、それを知ってか知らずか、きっと前者なのだろうが、政宗は今、調理場にいるの後ろに立っている。 「だから、そこに居られたら出来ないってば」 「まだ、火の加減に慣れてねえんだろ。俺が教えてやるって、手取り腰取り、な」 ニヤリと笑うその顔は楽しげでもあり、同時にには身の危険も感じた。 自分が料理する前に、彼に自分が料理されかねない。 そんなやり取りが続く中、足音が調理場に向かっているのを感じた。 「uh......what's?」 調理場の扉の前で、足音が止まったと思うと、いきなり扉は勢いよく開いた。 そこには、の見慣れぬ女性が立っていた。 外はね気味の髪に、緑の着物を着ている女性。いかにも勝気な表情をしているが、かなりの美人。 誰だろうと考えているとは対照的に、政宗は心底嫌そうな顔をしている。 「また、アンタ等か。今度は何しに来たんだ?」 「是非、小十郎様のお野菜を分けて頂こうと」 「それなら、小十郎に言えよ。今は俺はhoneyの相手で忙しいんだよ」 「小十郎様に伺ったところ、政宗殿の許可を取るように仰られたので」 さっさと出て行けとばかりに手を振る政宗の態度に気にせず、女性はにこにこと用件を述べる。 「それに…………」 女性は、そこで言葉を切ると、の方へ向いた。 「あの独眼竜が溺愛しているという噂の姫様にも挨拶をと。お初にお目に掛かります。前田利家が妻、まつにございます」 笑顔で、そして、優雅な仕草で、に挨拶をする。 前田といえば、加賀百万石で有名なあの前田だろう。 「えっと、伊達政宗の妻、のです」 妻と言う所では少し戸惑った。いまだに慣れないのだ。 「あの独眼竜の奥方がこのように可愛らしい方だなんて」 まつは、の手を取り、にこにこと笑顔でいる。 「おい、野菜はいいのか、野菜は」 「ああ、忘れるところでございました。持って帰ってもよろしいでしょうか?」 「好きにしろ、と言いてーところだが、今収穫できるヤツはこれからが使う予定だ。悪いが、やれる物はねえな」 今からは料理をする予定だった。もちろん、小十郎の野菜を使ってだ。政宗に料理をすると聞いた小十郎が、食べごろの物を提供してくれたのだ。 「まつ〜。某、腹が……」 声と共にやってきたのは、なんだか、野生的な着物の男性。 「まあ、犬千代様、もう少しお待ちになって下さい」 誰だろうと思っているに、政宗があれが前田利家だと耳打ちする。 「どうしても駄目でございますか?」 いまだに食い下がるまつに、政宗ははっきり駄目だという。 それを見ていたが、話掛ける。 「……まつさんは、料理は得意ですか? よければ、教えて貰えますか? それなら、あまった物を持って帰っていいので」 この奥州まで来たのだから、料理に拘りがあるのだろう。そして、部下がくるのでなく、奥方自身がくるのだから、彼女は料理が得意なのかもしれないと踏んでのことだった。 「まあ、なんと、そういうことでしたら、私としても願ったりでございます。是非!」 まつは嬉しそうに微笑む。そして、政宗と利家を調理場から追い出して、さっそく取り掛かった。 追い出されたので、仕方なく政宗は料理が出来るのを待っていた。もちろん利家も一緒にだ。 「お待たせ致しました」 声とともに、まつとが料理を運んできた。 作ったものは、いたって普通の煮物だ。 くるや否や、利家は作ったご飯に箸をつける。食べた瞬間、旨い旨い!! さすがまつだ!! という利家を政宗は呆れ気味に見て、自分も箸をつけようとする。 が不安そうに見ているのが視線でわかる。 彼女が作った物なら、どんな不味いものでも食べる自身はある。それ以上に、彼女が自分の為に作ってくれたという事実だけで、口元が綻ぶ。そんな風に政宗が思っているとも知らず、はただ不安気に政宗が箸を付けるのを見ていた。 「……ど、どう?」 「……ああ、旨いじゃねえか」 「ホント?」 「Yes」 「よかったぁ」 は心底ホッとした表情になる。 「また作ってくれるんだろ?」 政宗がそう問えば、は照れながらも、笑顔で頷いた。 終 戻る 20万打リク『政宗に手料理を食べさせようと作ってたら』 卯月 静 (08/09/10) |