【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】

番外編 名は体を表す





 伊達政宗の師、虎哉和尚。はその虎哉の寺に来ていた。
 もちろん政宗と一緒で、今回は成実も一緒にいる。

「今日は、どんな話を聞かせてくれるんですか」
「そうじゃの……」

 虎哉の話は面白くて、聞いていて飽きない。
 造詣が深く、にとっては、とても勉強になる。とくに、ここ周辺の歴史や風土についての話は、まだまだ知識に乏しいにはとても、為になるのだ。
 もちろん、彼が話すのはそれだけではなく、政宗の昔の話も聞けたりする。
 どんな話をしてくれるのだろうかと、はワクワクしながら、待っている。
 虎哉は、政宗、成実と見て、意味深に微笑んだ。

「なら、今日は、そこの二人の話にでもするかの」
「「はっ!?」」

 政宗と成実が同時に声を上げる。

「ちょっと待て!」
「なんじゃ?」
「いい加減、俺の昔の話をコイツにするなって言ってるだろ」
「なんじゃ、聞かれて困る過去でもあったかの?」
「……ねえよ」
「なら、問題はないの」
「……クソジジイ……」

 虎哉のことだから、本当に話してはいけない話は、たとえにでもしないだろう。いや、にだからこそしない話もあるだろう。
 だから、彼が話すのは、政宗の小さい頃の話でも、主に、笑い話になるようなことだけだ。
 それこそ、幼い頃の政宗の話は、彼のトラウマを刺激するものも多いだろう。
 としては、そういうことを含め、話して欲しいとは思うが、それは政宗以外から聞くことではないし、聞いて、それでも政宗の全てを受け入れることができるかといえば疑問だ。
 政宗を嫌いになることはない。それは断言できる。だが、それと彼を受け止められるかといえば別の問題だ。
 現代の、安全な場所で、両親に愛され、幸せに成長したでも、政宗が自分に見せていない深い闇を抱えていることは分かる。
 でも、政宗が自分から話さないのなら、自分から聞くべきではない。
 それでも、好きな人のことは知りたくなる。だから、幼い時のカワイイ失敗くらい知りたいと思ってもばちは当たらないだろう。

「それで、どんな話なんですか?」
「ちょっと、ちゃん、聞くのっ!」
「うん。二人の小さい頃の話は興味あるし」
「いや、でも、さ……」
「往生際がわるいのー」

 政宗の話だけなら、一緒に笑える。しかし、自分の話までとなれば、笑えないと、成実は止めようとする。
 しかし、先ほど政宗が止められなかったものを、成実が止められるはずも無く、虎哉の話は始まった。

「これは、そこの二人が初めて会った時の話での    



 二人が元服前で、まだ、政宗が梵天丸、成実が時宗丸と呼ばれていた時。
 時宗丸は、父親について、城に来ていた。幼い時宗丸は同席することはできるはずもなく、庭で父親を待っていた。
 ギシッと廊下の鳴る音がして、振り向くと、同じ年くらいの子供がいた。
 色が白く、視線は伏せがちで、怪我をしたのか、顔に包帯を巻いていた。

「ねえ、君も、父上を待ってるの?」

 同じ年くらいの子供を見つけ、嬉しくなり時宗丸は、声を掛けた。
 しかし、相手は、ビクリとして、何も答えない。

「俺は、父上が出てくるまで、遊んでろって言われたんだ」

 笑顔で話す時宗丸に、子供は小さな声で答えた。

「……父上が……一緒な年くらいの、子がいるから……遊んでもらえ……って……」
「なら、一緒に遊ぼう!! 俺は時宗丸! 君は?」
「ぼ……っ」
「ぼ?」
「…………」

 それっきり、子供は名前を言わない。言ってくれないと、どう呼べばいいのか分らない。頭文字だけは、さっき聞いた。そこから予想してみようと、考えていると、目端に牡丹の木が見えた。

「分った! 牡丹だ! 君の名前は牡丹でしょ?」

 子供は、驚いたように目を丸くしている。時宗丸は、それを見て、自分の予想が当たって、驚いているのだろうと思った。

「違う? 可愛い名前だから、君に合ってると思ったんだけど」

 時宗丸がそういうと、子供は目を瞬いた。
 色白で、顔の半分は包帯で隠れているが、きっと、この子は将来美人になるだろうなと、思った。
 だから、牡丹という名前はこの子に合うと思ったのだ。

「牡丹……」
「うん、違うなら」
「……牡丹だよ」

 牡丹は笑顔で時宗丸の言葉を肯定した。
 牡丹の笑顔は、可愛らしく、時宗丸は若干赤くなった。

「じゃ、じゃあ、どこに遊びに行こうか」

 男の子相手なら、いつもみたいに、いろんなところへ行ったり、手合わせなんかをしてもいい。でも、相手が女の子では、怪我をさせてはいけないと、考えうる限りに、大人しい遊びはないだろうかと、頭を悩ませる。

「……こっち……」

 すると、牡丹は、時宗丸の手を引いて歩き出した。
 子供でしか通れないような道を抜けると、その先は、大きな木があった。

「え?! 危ないよっ!!」

 牡丹がその気に登り始めて、時宗丸は慌てて止める。しかし、牡丹は止める気配もなく、どんどん上へ登って行く。
 女の子に負けてはられないと、時宗丸も、木に登り始めた。
 牡丹はかなり上に登ったらしく、中々姿を捉えることができなかったが、やっと見つけた。

「見て」

 牡丹が指差した方を見れば、そこには、城下の町が一望できた。

「すげー!!!!!」

 城からでも、ここまで見られるところは中々ない。
 というか、時宗丸にとっては、初めて見る城下の町の姿だ。

「……ここ、お気に入りの場所だから、時宗丸にも教えようって、思って……」
「うん! すっげー。ありがとう!」




「時宗丸、また、来る?」
「うん、また来るよ。その時は一緒に遊ぼう」
「うんっ!」

 牡丹と別れ、時宗丸は父親と合流し家路についた。
 大人しそうなのに、じゃじゃ馬だけど、可愛い子だったなと思いながら。






「で、次に城に来たときに、その子の正体を成実は知ったわけじゃ」
「え、その、女の子って……もしかして……」

 が、横をみると、政宗は視線を逸らし、成実は耳を塞いでいる。

「あっはっはっは。そうじゃ、政宗じゃ。小さい頃は、本当に大人しくての。色も白くて、女の子と間違われても不思議じゃなかったぞ」

 笑いながら、言う虎哉に対し、政宗と成実は今にもその場から離れたいといった様子。
 成実は、今も、あの「牡丹」の正体を知った時の衝撃は覚えている。あの女の子が、実は男で、伊達の時期頭首だと聞いた時は、顔から火が出るどころか、目の前が真っ暗になったのだ。
 成長して、男性ではあるものの、整った顔立ちの青年に政宗が成長したことは、あの小さい頃の成実の審美眼は正しかったといえるが、そんなことを考える余裕など、成実には全くなかった。


終 戻る

20万打リク 『虎哉和尚による本人たちを目の前に置いて、ヒロインへの幼少時の暴露話。』
卯月 静 (10/03/27)