【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫】心の支え
昼下がり、は猫とお茶をしつつ、雑談をしていた。 不意に、部屋の襖が開いた。二人の視線は、開いた襖へ映る。 「政宗?」 そこに居たのは、この城の城主である政宗。彼がここにいたところで、何も不思議はないのだが、今は執務中だったはずだ。 いつもの格好よりも、幾分か畏まった服装をしている。 「どうしたの?」 の疑問に、政宗は答えず、部屋に入る。 猫はいつの間にか部屋から姿を消していた。 「ちょっと、政宗! 服が皴にっ」 政宗が急にを抱きしめたものだから、は思わず声をあげた。 「……少しだけこのままにさせてくれ……」 政宗らしくない、小さく弱弱しい声。でも、にはハッキリ聞こえた。 は、そっと、政宗の背中に腕を回す。 何かあったのか、これから何かあるのか、それは分らないけど、こうすることで、政宗が楽になれるならと思う。 「……今から、母親に会って来る」 政宗とその母親とは不仲と言っていいだろう。 最近は、上手くいき始めているようだが、昔のことがあるから、母親と会うのは緊張するのだろう。 今の状態は、政宗に抱きしめられているというよりも、縋り付かれているというべきかもしれない。 「……Thank you,honey.もう大丈夫だ」 を抱きしめていた腕の力が抜け、は政宗を見つめた。 政宗の表情は、いつもの自信たっぷりなあの表情で、声もさっきまでのような弱弱しいものではない。 それでも、心配だという表情で、が政宗を見ていた。 「長いする気はねえから、んな顔するな」 「痛い……」 政宗がペチンとの額を叩き立ち上がる。は叩かれたところを押えている。 「なんだ? 誘ってんのか?」 若干、涙目になりながら、政宗を睨めば、そんな言葉が帰ってきた。 「なっ?! 誰も誘ってなんかないってば! ほら、早く行って、さっさと帰ってきてよ」 赤くなりつつも、は、部屋から、政宗を押し出す。 「そうだな、さっさと帰ってきて、アンタの相手しないといけないからな」 「だから、それは、もういいってっば!」 笑いながら、部屋を去る政宗の後ろ姿をは真っ赤な顔をして見つめていた。 毎度のこととはいえ、慣れない。でも、このやりとりこそ、いつものやり取りで、ほっとするのも事実。 「猫ー。いるんでしょ」 が部屋の天井に向かって呼べば、上から、猫が降りてきた。 「久々に料理しよっかなって思うから、手伝ってくれない?」 「政宗様のためなら、一人でしなさいよ」 「いや、だって、いまだに火加減難しくて、手伝ってくれないと失敗しそうだし」 何度か料理をしてはいるが、やはり、現代とは違って火加減が難しい。 ガスコンロなら、お手の物なのだが……。 それを知っているから、猫は溜息を吐きながら、の後を追う。 は、何を作ろうかなと思いながら、炊事場に向かった。 終り 戻る 卯月 静 (10/05/11) |