そこにいるのが当たり前なくらい
特別な存在になれたらいいと思う。



『繋がる想いと繋がれる想い』




「高いなぁ。」
じぃっと空を見るように
金網の壁を見上げる生徒が1人。
小さく言葉が零れた。
空は黒くて
白く光る星が見える。

「不審者発見。」

聞こえてきた声に見向きもせず
その生徒は金網に背中を預けた。
少しして右隣りに人の気配。
別の生徒の背を受けて金網が音を立てる。
だが
先に背を預けた生徒の右隣りに在るのは
とても背の高い木だけだ。
「いまどき珍しいよな。この金網。」
「うん、ありえない。」
2人の背を支えるのは
高さ約4メートルの金網の壁。
そして2人は
互いの姿が互いの棟から見えないよう
木に隠れるような位置に立っていた。
時間帯が夜だからその行動はあまり意味を持たない。
それでも、棟に誰もいないとは限らないのである。
忘れ物をして学校に忍び込むなどよくある話。
「端から見たら1人黄昏てるだけか。」
「ははっ。青春みたいで良いねっ。」
2人揃ってクスクスと笑う。
武蔵森には男子棟と女子棟がある。
その敷地を分ける壁が、この
高さ約4メートルの金網なのだ。
「みんな鍵つけてるね。」
視界に入った近くの南京錠を
彼女、は左手の指で軽く押す。
「誓いの錠、なぁ。」
押されて鈍い音を立てた南京錠を見ながら
彼、三上亮は呟いた。
「なぁ、。」
「ん〜?」





「そういうのねぇと、やっぱ不安なわけ?」





「・・・え?」
三上の言葉には質問の意図が
いまいち掴みきれなかった。
その質問の主が
『自分』にあるのか
それとも
『その他大勢』にあるのか。
「誓いの錠、だろ?名称。」
まるで第三者のようなその口ぶりに
さっきの質問の主が後者であると感じた。
「繋ぎ止める何かを求めたりもするんじゃない?
 離れ離れになってるわけだし。」
「ふーん。」
「なに?その反応。折角答えたのに。」
さして興味もなさそうな三上の反応に
は僅かに苛立ちを感じだ。
結構真面目に答えたのに。
そんな思いがちらついた。
「こんなちっさい鍵に永遠願ったりとか
 全部の感情つめ込んでんのか。」
「どこかで形にしてないと不安なんだよ。
 感情伝えるのは難しいし、
 傍にずっといられるわけじゃないから。」





は?」





「え?」
は思わず三上のいる方向に顔を向けた。
「お前はどう思うんだよ。」
「・・・何が?」
「鍵つけたいとかつけたくねーとか。」
「・・・でも亮嫌いじゃん。」
「あぁ。好きじゃねぇ。」
「この問答に意味ある?」
「まぁ、それなりに。
 で?」
そう振られると答えないわけにはいかないようだ。
「そう、だなぁ・・・。」
はそのまま会話を止めた。
そして少し考える表情。
そんな姿を背で感じながら三上も何も言わない。
急いで答えを聞きたいわけでも、
焦った答え聞きたいわけでもない。
聞きたいのは



彼女の心そのものだ。





「少しは・・・憧れる、かな。」





何となく話に続きがありそうな気がして三上は
ほんの数秒、の方へ目線を動かすだけに留まった。
「みんなみたいに鍵つけるっていうのは
 私もちょっと遠慮したいんだけど。
 でもなんか、良いなぁってのは思う。」








「・・・亮は人気だからね。」








「今俺の隣りにいるのはなのにか?」
「そうだねっ。」
は面白そうに笑う。
傍にいるのは分かってる。
隣りにいるのも分かってる。
それでも
人気の高い人の隣りは
それだけで不安になる。
見た目だけの人気じゃなくて
それを守るための努力もしていて
実力も兼ね備えている。

武蔵森 サッカー部
MF 背番号 10

そもそも
三上との関係は学校では表に出していない。
人気があるのも理由の一つ。
そしてなにより
自分の存在が三上の負担になりたくないからである。

『名門武蔵森』

サッカー部でその座に居続けることの
大変さを知っているからこそだ。
自分達の関係も
今の状況にも
不満があるわけじゃない。
だが
表に出していないからこそ
表に出している恋人達を
ほんの少しだが
羨ましいと思うのだ。




「不安?」





「時々、ね。」





言葉を聞いて苦笑い浮かべている
彼女の姿が三上の脳裏によぎった。
先程の声もおそらく苦笑いをしていたのだろう。






「それなら話は早い。」







「え?」






が反応するのと同時に三上は
彼女の右手を金網越しに握った。
「えぇっ?!」
そしてすぐにの反応。
「変な声。」
思いどおりの反応だったのか、
三上は小さく笑った。
「え、だって急にっ。」
「金網越しじゃこれが限界だな。」
そう言いながら自分の指と彼女の指を絡めて繋ぐ。
「わっ!」
「恋人だしな。」
彼女の反応を楽しむように三上は言葉を続ける。
「まぁ、鍵みたいに硬くねぇし
 丈夫じゃねぇかもしれないけど。」





「誓いの錠のかわり。」





「・・・え・・・?」





ほんの少し三上は手に力を込めた。





「俺がこの状態だからな。
 ろくに出かけたりとかも出来ねーし。
 夜のこんな時間にしかまともに逢えねーし。
 それに・・・。」








を不安にさせてるから。」








それを聞いては目を閉じた
三上の言葉を自分の中に留まらせるように。









「俺はが好きだからな。」






「・・・ぇ・・・。」




普段感情を言葉にしない三上。
はゆっくりと三上に顔を向けた。
目に映る三上はいつもの笑み。



「これからも頼むな。」
「・・・うん。」



繋がれた誓いの錠にほんの少し力を込める。
今願うこの想いが
今想うこの感情が
どうかどうか
末長く続きますようにと祈りながら。






end




【後書きというなの言い訳】
夢交換と言うことで、リクの三上夢。
初夢!ということで苦労しました。。。
し・か・も・あんな素敵な佐助夢貰っちゃって
こげなものを捧げるというのもなんですが(笑)
楽しんでくれたらこれ幸いですv


第二弾の交換夢!!!
笛!の三上です!金網越しに手を繋ぐとか、すっごい素敵で、ときめきっぱなしだったんですけど!!
三上もシゲも好きだけど、これをくれた京ちゃんが大好きですと、精一杯の愛を叫んでおきます。
ありがとう!!
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