応接室で恭弥と話していたが、風紀委員に呼ばれ、何処かに行ってしまった。
は、それなら、授業に戻ると言ったが、勝手に居なくなったら噛み殺すと言われ、立ち上がったあと、再びソファーに座った。
結構時間は経つのだが、いまだ恭弥は帰ってこない。
退屈に感じ、空気の入れ替えも兼ねて窓を開けると、窓から小鳥が入ってきた。
小鳥はくるくると応接室を飛び回ると、椅子に掛けてある恭弥の学ランの上に止まった。
「あ……。そこ乗ったら、委員長に怒られるよ」
話しかけたところで、反応があるわけもないが、思わず忠告してしまう。
窓を閉め、小鳥に近づくと、小鳥は喋りだした。
「カミコロス。カミコロス」
可愛い声で、聞き覚えのある台詞を言う小鳥に、は思わず笑ってしまった。
「面白いね。ほら、って言ってみて、」
小鳥に自分の名前を教えて見るが、小鳥は首を傾げているだけ。
首を傾げる小鳥の姿が愛らしいが、覚えてくれなくて残念とも思う。
先ほどの恭弥の台詞にしても、何十回と聞いたから覚えたのだろう。そうすると、自分の名前も何十回と繰り返さないと覚えないに違いない。
「やっぱり難しいかな」
でも、可愛いなぁと、微笑みながら、撫でてやると、小鳥は大人しく撫でられている。
「委員長、遅いね」
「ヒバリ、ヒバリ」
やっぱり、この小鳥は、恭弥の鳥なのだろうか。それか、頻繁にこの部屋に、紛れ込んでいるのかもしれない。
「委員長の名前は覚えてるのに……。ほら、、言ってみて、って」
ちょっと悔しくなって、自分の名前を覚えさせようと、何度も言ってみる。
「……ムレルナ」
「群れるな?」
しかし、小鳥から、出るのは、彼の口癖ばかりが多い。可愛らしい小鳥から出た、恭弥の物騒な台詞があまりにも合わなくて笑ってしまう。
「あ……」
しばらく、小鳥を撫でていたが、不意に、小鳥が飛びたった。
小鳥を追って視線を移動させると、そこには、戻ってきた恭弥がいた。彼の肩に小鳥は乗っていて、普段からそうであるように自然な様子だ。
「その子、委員長が飼ってるんですか?」
「飼ってるわけじゃない。勝手に懐いてるだけだよ」
「でも、慣れてますよね」
そういって、は小鳥を撫でる。
「ー、ー」
小鳥は、やっとの名を呼んだ。
さっき教えて、今呼ぶということは、中々この子は優秀なのかもしれない。それとも、私の努力の結果かも、と思い。恭弥に向かって話しかける。
「委員長、聞きました? 今、私の名前呼びましたよ」
嬉しそうなを、恭弥は表情も変えず見ている。
しかし、休み時間の終りのチャイムが鳴ってしまった。折角、小鳥が名前を呼んでくれたのに、もう少し遊びたい。ならば、サボってしまおうかと思っていたが、
「今日最後の授業は出た方がいいよ」
と言われてしまえば、サボりますとは言えない。小鳥と遊べないのは本当に残念だ。
「あ、はい。じゃあ、また放課後来ます」
放課後にまた、この小鳥と遊ぼうと思い直し、応接室を出た。
恭弥は、が出て行くのを見送り、彼女の姿が見えなくなると、応接室の窓際に腰掛ける。ここはいつもの彼の定位置だ。
小鳥は、数週旋回すると、再び恭弥の肩にとまる。
「毎日聞いてるんだから、覚えないはずがないよね」
恭弥の呟きに返事するように、小鳥は小さく鳴いた。
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卯月 静 (09/03/10)