特別な日
群れるのも、群れているのを見るのも気に入らなかったはずの、並中風紀委員長、雲雀恭弥が、ある女生徒といつも下校を共にしているということは、周知の事実。
相変わらず、学校の気に入らないヤツを締めていることには違いないが、その女生徒がいる時は手を出すことはないらしい。とはいえ、だからといって、その女生徒といるところを狙えば、目だけで殺されそうなほどの殺気を放たれるだけでなく、翌日きっちりお返しがくるのはいうまでもない。
それだけのことがあるから、皆、彼女は雲雀恭弥と付き合っていると思っている。
「ち、違うよ!!」
「違うの?」
明日はバレンタインデイ。は、クラスメイトである京子から、恭弥にチョコをあげるのかと聞かれた。どうしようか悩んでいると答えたのだが、
「付き合ってるのに、あげないの?」
といわれた。で、先ほどのセリフに戻るのだ。
「そんな、委員長の彼女なんて、恐れ多い!! そりゃあ、なれたら嬉しいかなとは思うけど……」
「いつも一緒に帰ってるから、てっきり。でも、皆そう思ってるみたいだよ?」
「嘘っ!?」
「ホントだよ」
確かに、はいつも恭弥と帰っている。それは、としても、嬉しいからいいのだが、まさかそれで、二人が付き合っているという噂が流れているとは……。
もしかしたら、恭弥まで伝わっているかもしれない。が、伝わっていたら、きっと、恭弥のことだから、噂の出所を探って、噂ごと、潰したに違いないが、まだ、流れているということは、知らないのかもしれない。
「ちゃんが、付き合ってるにしろ、付き合ってないにしろチョコあげたら? きっと喜ぶよ」
という京子の言葉に踊らされ、昨夜生チョコを作って持って来てみた。が、中々渡す勇気が出ない。
「あ、副委員長、これどうぞ、いつもお世話になってるお礼です」
応接室へ向かえば、出てくる草壁と会った。折角なので、用意していたチョコを渡す。
まさか、自分にくれるとは思っていなかった彼は、少し驚いていたようだが、すんなり受け取ってくれた。
応接室の扉に向い、その前で深呼吸する。気合を入れ、ドアノブに手をかけた。
「何、やってるの?」
開けようとすると、ドアがスッと開き、恭弥が出てきた。力が入ってしまっていた分、つんのめって転んでしまった。
恭弥は、転んで座り込んでいるを呆れた様子で見ている。は、早く入れと促されたので、さっさと入った。かみ殺されたのではたまらない。
「で? 僕に渡す物があるんでしょ」
恭弥は、ソファーに座り、ジッとをみている。
「は、はい、一応……。手作りなんで、味の保証はできませんけど……」
は、鞄から先ほど草壁にあげた物とは、大きさも包装も違うチョコを恭弥に差し出した。
だが、恭弥は受け取る気配がない。
「委員長?」
「さっき、副委員長にもあげてたよね。昼には、草食動物達にも。義理なら、僕は受け取らないよ。」
どうやら、ばっちり見られていたらしい。だが、義理は受け取らないということは、本命なら受け取ってくれるのだろう。もちろん、この恭弥へのチョコが本命以外であるわけはない。
しかし、本命だといって渡す=告白ということになってしまう……。
どうしようかと、悩んでいたのだが、恭弥の視線に耐えられるはずもなかった。
「一応、本命……だったり……します……」
「ふーん。なら貰う」
恭弥は、の手から、チョコを取った。
そして、その場で包装を開けた。はドキドキしながら、それを見守る。味見はしたから、味は大丈夫なはずだ。
しかし、恭弥は一粒食べたが、何も言わない。
「委員長? 味はどうです?」
「……不味くはないよ」
その言葉を聞いて、ホッとする。恭弥は不味ければ、不味いと言うだろうし、美味しいとは言わないだろうとは思っていた。不味くないというのは、恭弥なりの誉め言葉だと思う。
「いつまで、ボーっとしてるつもり、帰るよ」
恭弥は既に帰るようで、ドアの前にいる。は慌てて駆け寄った。急かされた為に、その途中の机に置かれた箱を見ることはなかった。
机に置かれた箱の中のチョコは、一粒も残っていなかった。
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卯月 静 (09/02/14)