変わるモノ、変わらないモノ




 応接室で、いつものように恭弥の仕事が終わるのを待っていた。
 バタバタと人が走る音が聞こえたと思うと、ガラッとドアが開いた。すると、牛柄の服を来た赤ちゃんが入ってきた。

「あれ? 君は沢田くんの……」

 が首を傾げていると、恭弥はと赤ちゃんの間に立った。

「何してるの。早く出てくれない。じゃないと、赤ん坊といえど、噛み殺す」
「おっ、おい! ランボッ! 何やってんだよっ!」

 恭弥が睨みつけていると、すぐに綱吉が入ってきた。綱吉はランボと呼ばれた赤ちゃんを連れ出そうとしているが、ランボは動かない。正確には、動かないのではなく、動けないのではないだろうか。

「それは、君の知り合い? なら噛み殺すのは君にしようか」

 先ほどよりも、いっそう増した殺気に、ランボは泣きそうになっている。

「ガ……ガマン……」

 と言いつつ、ランボは髪の中から、長い筒を取り出した。しかし、恭弥に睨まれ、ビクリと反応すると、その拍子でこけた。
 ランボの取り出した筒は、どうみても、バズーカに見える。そして、その銃口は恭弥の方へ向いていた。
 カチャという音と、一緒に煙が上がる。どうやら、発射されたらしい。
 恭弥は反射的にそれを避けた。

「っ! ……しまっ」

 恭弥はの前に立っていたから、彼が避けたことで、バズーカは必然的にに当たることになる。気づいた恭弥が、に向かって手を伸ばすが、間に合うはずもない。
 は思わず目を閉じた。


 しかし、目を開けると、そこは応接室ではなかった。

「あれ?」

 自分は夢でも見ているのだろうか? 今いるのは何処かの家の一室。部屋の主のセンスの良さがわかる、高級な調度品。

「外国っ」

 部屋の雰囲気が、日本ではないような気がして、窓の外を見た。すると、外は映画で見るような、西欧の街並。

、何してるの?」

 聞き覚えのある声。しかし、が知っているものよりも、幾分か低い。
 振り向くと、そこには恭弥がいた。間違いなく、恭弥なのだが……。

「ワオッ。懐かしいね」
「委員長……ですよね?」

 目の前にいる恭弥は、どう見ても中学生には見えない。どう見ても、成人している大人だ。

「その呼ばれ方も久しぶりだ」

 本当に懐かしそうに言うから、はドキドキしてしまった。

「ここは、君から見れば、十年後の世界だ」
「十年後っ!」

 とても信じられる話ではないが、恭弥は冗談をいうやつではない。

「今頃、この時代の君は、十年前に行ってるよ」

 つまりは、この時代のと、自分が入れ替わったということだろう。それにしても、非現実過ぎて頭がついていかない。

「五分しかないらしいから、もうすぐ戻るだろうけどね」
「ここは、委員長の家なんですか?」
「そうだよ、君の家でもあるけど」
「え? それってどういう」


 煙に包まれ、それが晴れると、応接室にいた。綱吉とランボはもう居ない。

「委員長ですか?」
「僕以外の誰に見えるの」

 目の前にいるのは、中学生の恭弥。自分の見慣れた恭弥がいることで、少しホッとした。

「い、いえ。信じられないかもしれませんけど。十年後の委員長に会いまして」
「僕も、十年後の君に会ったよ。全然変わってなかったけどね」
「委員長は、すごくカッコよくなってましたよっ!」
「へぇー」
「あれ? 委員長?」

 恭弥のことを褒めたつもりだったが、何故か少し機嫌が悪くなった。しかし、には何も思い当たらない。

「そういえば、十年後の私は委員長の家にいたみたいなんですけど、十年後の委員長が、私の家でもあるって」
「そう……。十年後になったら分かるでしょ」

 疑問の解決にはならなかったが、恭弥の機嫌は直ったらしい。恭弥の冷たい雰囲気はなくなり、再び仕事に戻った。
 恭弥が仕事に戻ったので、読んでいた途中の本を再び開いた。
 こういう日々が、十年後も続いていたらいいなと、少し思いながら。




「恭弥さん。十年前の恭弥さんに会ってきました」
「へぇー。で、どうだった?」
「可愛かったです」
「そう。君はあまり変わってなかったね」
「少しは成長しましたよ」
「じゃあ、君が成長したかどうか、確かめてあげようか」
「え? きょっ、恭弥さんっ! 近すぎますっ!」 

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卯月 静 (09/02/21)