※10年後設定です。
「恭弥さんお帰りなさ……い?」
は帰ってきた恭弥に声をかけたが、最後の方の言葉は疑問符が付き、首をかしげた。
それも無理はない。彼の腕の中には、赤ん坊がいた。赤ん坊といっても、ボンゴレのヒットマンの類ではなく、正真正銘の赤ん坊だ。
「どうしたんですか、その子」
「…………押し付けられた…………」
恭弥はムスッとした様子で答える。その様子は学生時代の彼をどこか思い起こさせる。
「え、でも、この子って……」
恭弥が抱いている赤ん坊とは、も面識はある。なんせ、この赤ん坊は、恭弥の知り合いの息子なのだ。
恭弥は、至極自然に、に赤ん坊を渡す。渡されたは、慣れた調子で、あやす。この赤ん坊を抱くのは初めてではない。この子の両親とは顔を会わすことも多いし、この家にくることだって多い。
「夜には迎えにくるってさ」
「そうですか。じゃあ、夜まで私がママだからねー」
恭弥の言葉に相槌をうち、最後の言葉は赤ん坊に向けた。赤ん坊はキャッキャと笑っている。
この子の髪は父親譲りだ。並べてみれば、直親子と知れるだろう。父親はカッコイイという部類に入るから、きっとこの子もかっこよく育つんだろうなと思う。
「ずいぶんと、楽しそうだね」
「楽しいですよ。見てて飽きないし」
特に何もせず、が、ベッドに寝かせた赤ん坊をあやしているのを見ていた恭弥だったが、の隣に来て話掛ける。
の視線は相変わらず、赤ん坊に向いている。それが、恭弥には面白くなかったらしく、後ろから、覆いかぶさるように、体重をかける。
「ちょっ!! 恭弥さんっ!! 何してるんですかっ!」
「何も」
「何もって……」
危うくベッドの上に倒れ込むところだった。倒れこんだら、赤ん坊が潰れてしまう。
抗議の声を上げるが、恭弥は何処吹く風だ。だが、離れる気はないらしい。一向に背中の重みは消える気配はない。
「子供欲しいの?」
「っ! 耳下で話さないで下さいっ!!」
耳元で低く呟かれたんじゃ、の心臓がもたない。だが、きっと恭弥はそういうの反応を楽しんでいるのだろう。
「質問の答え。早く答えてよ」
「えーっと、子供いたらいいなとか思いますよ。可愛いなって思いますし」
「ふーん、男と女どっちがいいの?」
「そうですねー」
慣れたのか、会話に気がまぎれたのか、相変わらず恭弥と密着してるにも関わらず、はいつもよりも落ち着いている。
「男の子かなー。女の子もいいけど、やっぱ男ですね。一人は寂しいので、二人がいいです」
「へぇーそう」
「って、それだけですか?」
何か聞きたかったから、質問したのではと思ったは、思いのほかあっさりとした恭弥の反応を不思議に思った。
「何か期待してたの?」
「し、してませんっ!!」
面白そうに目を細めて言う恭弥に、真っ赤になって反論する。
ふっと背中の重みが消えると、恭弥は赤ん坊を抱き上げた。
「ほら、、何やってるの。買い物いくんでしょ」
言われて、冷蔵庫に何もないことを思い出す。帰ってきたら買い物に付き合ってと、朝言ったのを忘れていた。
「夜までだし、折角だから、家族ごっこに付き合ってあげるよ」
どうやら、恭弥は最初に、が自分のことを「ママ」だと言ったことを覚えていたらしい。
ずるいと思いつつも、恭弥と自分と、可愛い子供とというのは憧れで、ごっこと言えども、なんて素敵なのだろうかと思う。
恭弥に置いて行かれないように、さっさと用意して、追いかけた。
「その子私が抱きましょうか?」
「いいよ。コレ、軽いし。それに、今僕は『パパ』なんでしょ」
Fine 戻る
卯月 静 (09/03/24)