応接に行くと、恭弥はいなかった。風紀の仕事の最中か、もしくは、会議なのだろう。
いないからと帰ったら、怒られたことがあったので、いなくても、応接室で待つ。
「あれ?」
恭弥がいつも座っている机の上には、この場にそぐわない物が置いてあった。
さくら色のペーパーでラッピングされた、長方形の物体。
はそれを覗き込む。手に取ることはしない。机の上にあるものは触らないようにしているのだ。きっと恭弥が使い易いように置いているのだから、勝手に位置を変えてしまってもいけない。
マジマジとみると、それはどうみても、誰かへのプレゼントに見える。このラッピングの色から、恭弥にプレゼントされたものということはないだろう。
そういえば、今日はホワイトデーだ。バレンタインのお返しが来る日。
恭弥にバレンタインにチョコは渡した。本命しか受け取らないというから、勇気を出して本命だと言った。言ったから、恭弥にの気持ちは伝わっているはずなのだが、あれから恭弥の態度が変わる様子もない。
失恋決定かもしれないと、机の上のプレゼントを見て思う。
これは、ホワイトデーのお返しなのだろう。あの雲雀恭弥がプレゼントするのだ、ただのお礼ということはない。
「誰にあげるんだろう……」
「それは、君のだよ」
後ろから掛けられた声に、反射的に振り向いた。すぐ後ろには恭弥が立っている。
恭弥は、の横から、手を伸ばし、プレゼントを取る。プレゼントを取るために、少し前に重心が移動するから、今の二人の距離はとても近い。触れるか、触れないか、それくらいの距離だ。
そして、恭弥はとったプレゼントをに渡す。
「委員長……これ……」
「君のって言ったでしょ。この間のチョコのお返しだよ」
「ほ、本当ですか!!」
先ほどまで落ち込んでいた気持ちが、嘘のように晴れた。
「あ、あのっ! 開けても、いいですか……?」
「……好きにすれば?」
恭弥の許可も貰ったので、ラッピングを解く。すると、中から長方形の黒い箱が出てきた。
「可愛い……」
箱を開くと、そこには、可愛いデザインのネックレス。
「え?」
見惚れていると、ネックレスを箱ごと恭弥に取られてしまった。そして、箱から出す。
「後ろ向いて、動いたら噛み殺すよ」
「は、はいっ!」
言われた通り、後ろを向きジッとしておく。ネックレスのチェーンが少しヒヤリとする。の体に、恭弥は全く触れていないのに、何故だかドキドキする。
「それ、着けてこなかったら、噛み殺すから」
「ずっと、着けてます!! 寝るときも、お風呂入る時も外しません!」
「そう」
の言葉に満足したのか、恭弥はソファーに座る。
は、鏡で何度も確認しては、始終笑顔だった。恭弥はそんなを見ていたのだが、その表情が幾分か柔らかかったことは、本人すら気づいていなかった。
「ねえ、。僕は好意を持ってない相手に、贈り物はしないよ」
静かに呟いた恭弥の声が、鏡の前で喜んでいる彼女に届いたかどうか分かるまで、後数秒。
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卯月 静 (09/03/31)