「あっ! もう、時間っ!」
が、時計を見れば、もう約束の時間は過ぎていた。あの人を待たせるわけにはいかない。慌ててバッグを掴み、バタバタと階段を駆け下りる。
「遅いよ」
玄関のドアを開けると、恭弥は既に到着していて、待っていた。待たせるわけにはいかない、どころか、思いっきり待たせてしまった。
「日曜、迎えに行くから、家の前でいて」
「え?」
「遅れたら、噛み殺すよ。ああ、それと、スカートは履いてこないで」
それだけ言うと、の予定も、了承も聞かず、恭弥は帰ってしまった。
了承はしていなかったが、特に用もなかったので、言われた通りにすることにした。話の流れから、何処かに行くのだろうかと、これはデートなのだろうか、と期待してしまう。
スカートがダメだと言われたから、今日はジーンズなのだが、そこは乙女ゴコロというやつだ。恭弥と出かけるのだから、可愛くしていたいと思い、金曜から、何パターンも服装を考えたあげく、時間ギリギリまで姿見を見ていた。
「はい」
恭弥に渡されたのは、ヘルメット。そういえば、恭弥はバイクに跨っている。
「何やってるの」
早く乗れと、視線で促され、は慌てて、ヘルメットをかぶり、後ろに乗る。
これで、金曜に恭弥がスカートがダメだと言った理由が分かった。確かに、スカートじゃバイクには乗れない。
「君……死にたいの?」
「死にたくはないんですけど……」
座ったはいいが、どこにつかまればいいか分からなかった。ドラマやマンガのように、恭弥の腰に抱きついてもいいのかもしれないが、そんなことはできない。
恐れ多いし、恥ずかしさで心臓が破裂する。
だから、前の座席の後ろを掴んでいたのだが、恭弥に呆れられてしまった。
恭弥は、どうしようかと悩んでいるの両手を引っ張った。そして、自分の腰に巻きつけるようにして、腹の辺りで手を組ませた。
「い、委員長っ!」
「ちゃんと掴まっておきなよ」
そういうと、エンジンをかけ、すぐに走りだした。
は、始め、軽く掴まっていようと思っていた。こんなに密着しているのに、これ以上接近したら、心臓が持たない。
しかし、恭弥が思いの外、スピードを出すものだから、怖くて、無意識にギュッと抱きついてしまった。
華奢に見えるが、意外としっかりした体つきしてるなーなどと考えてしまって、さらに、ドキドキしてしまう。そうでなくとも、この距離は今まで以上に近い。
景色など楽しむ余裕は、微塵もない。周りの雑音や喧騒も耳に入らない。
恥ずかしくて、でも、手を放すわけには行かなくて、さらに心拍数が上がる。
恭弥から、の顔が見えるわけもないが、真っ赤になっている顔を見られたくなくて、顔を隠すように更にギュッと抱きついた。
Fine 戻る
卯月 静 (09/04/07)