君が入学する前に、僕らは出会っていたことを、君は、覚えている?
弱い奴程、群れたがる。それが、僕は目障りで仕方なかった。
僕の前に立っている奴に、トンファーで、腹に一撃与えれば、低く呻いて、その場に倒れた。
「次は、誰から、噛み殺そうか」
僕の周りを取り囲んでいた奴らは、殆どが、地に伏している。立っている者は、数人。
次は誰を噛み殺そうかと、見渡せば、怯えた目をして、目が合うと、叫びながら逃げていった。
いつもなら、追いかけて逃がしはしないけど……。
「……疲れた……」
今日は、朝から体調が悪い。
大人数なら、勝てるとでも思ったのか、奴らは、かなりの人数で向かってきた。でも、いくら群れてても、弱ければ蹴散らすのは容易い。だから、数分で片付いた。
倒れている奴らを介抱してやる義理は、僕にはないから、そいつらから少し離れたところへ移動して、座り込んだ。
やはり、体調は良くない。
あの程度なら、いつもなら、無傷なはずだが、一発食らってしまった。
一撃を受けた時に、口を切ってしまったのか、口の中が血の味がする。
その場に、吐き出すが、すぐに血の味が広がる。
「あ、あの……」
「何……」
顔を上げれば、小学生くらいの少女が、僕を見ていた。
「こ、これ、使って下さい」
僕が怖いのか、ビクビクしながら、ハンカチを差し出してきた。恐いのなら、声をかけなければいいのにと思う。
ハンカチは水に濡れていた。態々濡らして持ってきたのだろう。
「いらない……早く、僕の視界から、消えてよ」
「……で、でも怪我して……」
「君も噛み殺されたいの?」
そう言えば、少女はビクリと怯えた。
しばらく、立ち去ることも無く、かといって、近づきもせず、そのまま突っ立っていた。
「これ、置いておきますから、使って下さい」
そう言って、少女は僕にハンカチを押し付けて、走り去って行った。
「……………………」
僕は、てっきり、彼女はそのまま逃げていくだろうと思っていたから、反応できず、ただ、去って行くのを見ていた。
彼女が、並盛中に入学したのを知るのは、それから、少し後のこと。
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卯月 静 (09/06/02)