王子様




 いつものように、応接室に行くと、そこには、ソファーに座る恭弥の姿。……ではなく、見慣れない、金髪外国人のお兄さんが座っていた。
 彼は、ここの生徒の兄なのだろうか? だが、この学校に金髪の生徒なんて居ただろうか?
 そんなことをは考えていたが、そんなことよりも、この応接室にいるということが問題だ。
 人が勝手に入るだけでも怒るのに、部外者が入って、尚且つソファーになんて座っていれば、確実にこの青年は恭弥に噛み殺される。

「あの……。ここは、応接室なんですけど、応接室じゃなくて……」
「ひょっとして、か?」
「え?」

 の言葉をさえぎった青年に、名前を呼ばれた。しかし、はまだ名乗ってはいない。

「恭弥から、いろいろ聞いててな」

 青年は、にこにこと笑顔で話しを続ける。あの雲雀恭弥を名前呼びだ。

「委員長のお知り合いですか?」

 恭弥の知り合いなら、ここにいるのは恭弥が許可したのだろう。しかも、話ぶりから、かなり親しいようだ。

「ああ、俺はディーノ。恭弥の家庭教師だ」
「委員長の家庭教師!」

 恭弥は並盛の教師でさえ、恐れているのに、その恭弥の家庭教師とは、この目の前のディーノという青年は何者なのだろうか。

「しっかし、恭弥もやっぱり男だな。こんな可愛い子を傍に置いておくなんて」

 さすが外国人。言い方がストレートだ。加えて言えば、見目も良いとなれば、お世辞だと分かっていても、照れてしまう。

「ここで、口説かないでくれる」

 聞き覚えのある低い声に振り返れば、ドアに恭弥が立っていた。そして、しっかりとトンファーを構えて、ディーノを睨んでいる。

「…………噛み殺す」
「ちょっ! 待て、恭弥っ!」

 硬い金属音が、応接室に響く。
 恭弥のトンファーは、ディーノには当たらず、どこからか取り出したであろう鞭で、恭弥の攻撃を防いでいた。

「あっぶねー。会ってイキナリはないだろう」
「……あなたが、口説いてるのが悪いんだよ。風紀が乱れる」
「……なるほど、ヤキモチか。若いな」
「うるさい。何しに来たの、用がないなら、早く校内から出てよ」
「Io venni ad incontrare la Sua principessa.」(お前のお姫様に会いに来たんだ)

 ディーノは日本語でも、英語でもない言葉で、答えたため、は彼が何を言ったのか分からなかった。
 恭弥はというと、分かったのか、分からなかったのか、眉間にしわを寄せている。

「さて、邪魔しちゃ、悪いし、俺は帰るぜ。またな」

 ディーノが出て行った後、恭弥は如何にも不機嫌と言う様子で、ソファーに座った。促されて、も恭弥の隣に座る。

「王子様みたいな人でしたね」

 のその言葉に、恭弥が反応する。

「君はあの人みたいなのが、タイプなんだ」

 先ほどよりも、さらに機嫌が悪くなっているようだ。

「でも、残念だね。あの人、恋人居るみたいだよ」
「モテそうですもんね。って、何で私が残念なんですか?」
「王子様みたいなんでしょ」
「ああ、それは、おとぎ話に出てくる王子様みたいってことです。金髪の外国人って王子様のイメージそのものだと思いません?」
「…………ふーん。僕は知らない」

 同意なんて返ってくるとは思っていなかったが、答えた恭弥の声は機嫌が直っているらしかった。
 本当は、「私の王子様は委員長ですから」と言いたかったが、さすがに、それは言えない。言う勇気なんてない。
 恭弥が王子様なら、自分はお姫様かなんて、図々しいことは言わないが、王子様のお供くらいのポジションではいたいなと、思った。

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卯月 静 (09/09/29)