時を越えて…… 後編
いづれ離れなければいけないのなら、初めから想わなかったらよかったのだろうか。 でも、離れないといけない日が来ることは、分かっていたはずだ。 それでも、想いが募るのは止められない。 募る想いが止められないのなら、私が取るべき方法はただ一つ。 絶対に、この想いを彼に打ち明けないこと。 言ってしまえば離れたくなくなり、彼を引きとめ、困らせてしまうだろう。 「で、カレシさんとは最近どうなの?」 大学に行くと、いきなりそんな質問をされた。 だが、私はカレシができたと、友人に言った覚えはないのに。 「だから、カレシは居ないってば」 「同棲し始めて、結構長いよね?」 「だから、同棲じゃなく、同居」 「それに綺麗になったし! ほら、恋する女はキレイになるって言うじゃん!」 「私の訂正はスルーですか……」 友人が言うカレシが政宗のことだというのは分かっている。 政宗と生活し始めて結構経ったが、相変わらず私達は同居人でしかない。 確かに、ベッドで一緒に寝るが、男と女の関係にはなっていない。 襲われたいとか思ってるわけじゃないが、あれだけ接近してるのに何もしないのは、自分に魅力がないからかと思ってしまう。 「で、そうなの?」 「何も無いよ」 「ずっと一緒に暮らしてて?」 「うん」 「はカレシさんのこと、好きじゃないの?」 まさか。その反対に決まっているじゃないか。 だが。 「好きでも実らない恋ってのもあるってことよ」 私の返答に、友人はまだ納得いっていないようだ。 それも無理はないか。同居していて、カレシではないといった上に、好きでも実らないと応える私の意図が分からないのだろう。 でも、言えるわけはない。突拍子も無い話だ。 それ以上追求されないように、早々に立ち去る。 いくら好きでも実らない。我ながら自虐的なことを言ったと思う。 彼をこちらに引き止めるわけにはいかないし、私があちらに行くと決めたとしても、行けるかどうかは分からない。 彼と私は住む世界が違うのだ。 そして、それは比喩ではなく、事実だ。 がそろそろ、想いを隠すのも辛くなってきた頃。 空には黒い雲が浮かんでいた。 今にも雨が降りそうだ、と思っていると、やはり雨が降ってきた。 部屋まですぐだったから、それほど濡れることは無かったが、空の景色があまりにあの日に似ているようで、不安に押しつぶされながら、走って帰った。 そして、ドアを開ければ、いつものように笑顔で迎えてくれる政宗は居らず、そこには鎧を身にまとった侍がいた。 「嘘……」 「……世話になったな。……そろそろ戻らないといけねえらしい……」 いつの間にか、外では雷が鳴っていた。 いつか、こんな日が来るとは思っていた。 でも、もう少し先だと願っていた。 「……」 政宗は腕を伸ばすが、はそれを拒む。 「触らないで……」 今触れられたら、想いが溢れ出してしまう。 「帰るならさっさと帰っちゃってよっ!」 違う。こんなことが言いたいんじゃない。 「、俺は、アンタが……」 「言わないでっ!」 政宗が何を言おうとしているのかは分かる。だが、言われてしまえば、引き止めてしまう。 行くなと言って、彼を困らせてしまう。 あっちでは彼を待っている人々がいるのだ。 の瞳からは涙が流れ出していた。 政宗も、何故がそんな風に言うのか分かっている。自分はここに残ることは出来ないし、あの危険な場所に彼女を連れて行くことも出来ない。 泣かせたくないのに、泣かせることしか出来ない。 だが、政宗は抵抗するを抱きしめる。頭では分かっていても、体が勝手に動いたのだ。 触れてしまえば、放したくなくなるかもしれないというのに。 「アンタが言うなと言うなら言わない。だが、俺は……を忘れたりしない」 「私だって、政宗の、こと、忘れたり、しないん、だから」 「ずっと居てやれなくて、悪かったな……」 言うと、政宗はを放し、一歩下がる。 それと同時に、大きな音と共に政宗に雷が落ちた。 光に目を瞑っただったが、目を開けると、そこには誰もいなかった。 「さあ、私達の奢りだから、好きなの選らんで、元気だして!」 政宗が居なくなってから、元気のないを励まそうと、友人達が食事に連れて行ってくれた。 食事といっても、大学近くにあるファミレスだ。 友人達は、を置いて帰ってしまったという政宗に対して怒ってくれたが、政宗が悪いわけではない。 事情を詳しく話していないから、彼女達にしてみれば、勝手に上がりこんで勝手に去って言った、身勝手な男と映っているのだろう。 事情を詳しく話せないといえば、それ以上詮索せず、こんな形で元気づけようとしてくれる友人達に感謝した。 とりあえず、明日からは明るく過ごせるようになるかもしれない。 「じゃあ、コレと、ソレと。コッチもよろしく」 メニューを差し、いくつか注文を頼む。 ファミレスは客の少ない時間帯らしく、たちと、もう1グループだけだった。 そっちは、男だけのグループのようで、年齢はと同じくらいの大学生だろう。 「てか、竜の旦那遅いねー」 「教授の所によってから来る、と言っておったぞ」 「なんだぁ? アイツ、レポート再提出にでもなったのか?」 「それは、貴様だろ」 「うるせーよ」 「はいはい。二人とも店で騒がないでよね。って言ってる間に来たみたいだ」 「おお!! こっちでござるー!!!」 「旦那周りに迷惑」 大きな声に、は声のしたテーブルを見た。 そのテーブルに向かっている男が一人いるから、彼を呼んだのだろう。 の視線に気づいたのか、それとも偶然か、男がの方に顔を向け、と目が合った。 『俺はを忘れたりしない』 終 戻る 卯月 静 (08/02/07) |