若さ故の無謀





 学校の保健室と言えば何をするところであろうか。
 この問いに10人中9人が病人もしくは怪我人の看病をするところ、と答えるだろう。
 中にはサボる口実だとか、寝るところだとかいう輩もいるだろうが、保健室は決してナニをするとこではない。

「やだぁ〜。センパイったらぁ〜」

 保健室にあるカーテンの閉められたベッドから、女生徒の声が聞こえる。やだと言っている割にその声は嫌がっている様子は全くなく、むしろ相手を煽っている感じもする。
 というかベッドで寝ているのではなく、誰かと会話している。

「どうせ誰もこねぇし、楽しもうぜ」

 会話の相手は男子生徒らしい。
 つくづく保健室に似つかわしくない会話だ。
 だが、似つかわしくないのは会話だけではなく、その行為もだ。
 制服はこの学校の制服だから、この学校の生徒には間違いはない。
 女生徒はベッドに横たわり、天井を見上げている。腕は女生徒の視線の先にいる男子生徒の首に回され、制服のリボンとシャツのボタンは男子生徒によって外されており、下着が見え隠れしている。
 そして、男子生徒は、ニヤリと笑い。

「俺を楽しませてくれよ」

 と言うと、女生徒の首筋に……。
 シャッ!!!

「ヤるなら、自分の部屋かホテルに行け、ガキ共っ!」

 今からイイ所というタイミングでカーテンが開けられた。
 本来なら、イイトコで邪魔するな、と怒りたいが、相手が相手ではそれも言えない。
 二人を邪魔したのはこの保健室の主である、保険医の
 女生徒は恥ずかしさからか、顔を真っ赤にし、服を整えつつ逃げるように保健室を後にした。
 対する男子生徒は全く悪びれた様子もなく、ベッドに座っている。

「伊達、またお前か……」
「いい所だったのに、少しは見逃してくれよ。それとも、が俺の相手してくれんのか」
「バカ言うな。此処はラブホじゃないと何回も言ってるだろう」

 男子生徒の名は伊達政宗。この学校の2年だ。
 着崩した制服からも分かるように、決して真面目な生徒ではない。しかし、成績はよく、教師陣も手を焼いている問題児だ。
 この保健室で先ほどのようなことをしようとしたのは今回が初めてではない。

「それに、先生と呼べ。呼び捨てにするな」
「俺との仲じゃねえか」
「教師と生徒の仲だからこそ、先生と呼べと言ったんだ」

 未成年にしては、色気もあり、顔もいい。年齢に関わらず、政宗に口説かれて落ちる女は多い。
 女生徒だけでなく、何人かの女性教師、特に若い教師は政宗に甘い。
 が、は例外のようで、政宗がいくら落とそうとしても、全く落ちない。
 同世代の少女では物足りないと感じている政宗は、に会い、彼女こそが自分の女に相応しいのだと感じた。
 なんとかして、を自分の物にしたいのだが、全く靡かない。
 がどんな反応するのか知りたくて、何回か先ほどのように女生徒をここに連れ込んだが、その作戦は効果がないようだ。

「いい加減教室に戻れ」
「……kissしてくれたら戻ってやるよ」

 政宗はの顎に手を添え、その唇に己の唇を重ね…………。
 バシンッ!!!

「ってぇ……。何するんだよっ」
「教育的指導だ。バインダーとキスしたんだから、教室に戻れ、キスしたら戻るんだろ」

 あと少しで、というところで、政宗は顔面を思いっきりバインダーで叩かれた。
 叩いた本人は顔色変えず、いや、むしろしてやったりといった顔で笑っている。キスしたといっても、バインダーとしたかった訳ではない。

「ずるいぜ」
「誰と、とは言わなかっただろ。ホラ早く行け、もう直ぐ昼休みも終る」

 時計はまもなく午後の始業の時間を指している。
 はもう机に向い、政宗に背を向けている。

「休み時間なら追い出したりはしないから、授業には出ろ」

 の予想外の言葉に驚き、同時に笑みがこぼれた。
 ここに来るなと言われるかと思っていたが、ここにくることを嫌がられては居ないらしい。

「しょうがねぇな。続きは休み時間にしてやるよ」



 休み時間には来なかった政宗が放課後に来た。

「約束どおりきてやったぜ」

 ここに来ていいといわれたのが、よほど嬉しかったのか、声が弾んでいる。
 休み時間ならいいと言われ、律儀に守るとは可愛いトコもあるじゃないかとは思ったが、政宗を付け上がらせるだけなので、言わない。

「放課後までここにくる必要はないだろう。さっさと下校したらどうだ」
「授業意外なら、来てもいいって言ったのはアンタだろ」

 は思いっきり溜息をつく。

「それに……放課後の方が邪魔が入らなくっていいからな」

 言うやいなや、政宗はの手を引き、ベッドに押し倒す。
 押し倒されたは別に予想してなかったから大人しくそうされたわけではない。
 政宗がそういう行動にでることは大体予想は出来ていた。
 その証拠に、彼女の顔色は全く変わらない。

「私はまだ教師を辞めるつもりはないのだけど」

 生徒と関係を持ってしまえば、確実に教師を辞めなくてはいけないだろう。だが、に教師を辞める気など全くない。
 それ以前に暗に相手をするつもりはないと言っているのだが。

「バレなきゃ問題はねえだろ」

 分かっているのか、いないのか、彼からの返答は的外れな物だった。

「卒業できなくなるかもしれないぞ」
「アンタが手に入ればそんなものはいらねぇ」
「もっと若くて可愛いのが周りにいるだろう」
「俺はアンタが本気で好きなんだ」

 政宗の声も視線も真剣だ。それが分からない程は鈍感ではない。
 が、本気なら尚のこと、その思いに答える気は全く無い。

「アンタには悪いけど、俺は謝らなねえからな」

 そういうと、政宗はのシャツのボタンを外し始める。
 は溜息をつき、そして、再び息を吸い込み、最後に……。
 ドゴォ!!!
 の膝が見事政宗の鳩尾に命中した。

「うっ……」

 政宗は声にならない呻き声を上げて、倒れ込む。
 倒れてきた政宗の体を退け、はベッドから降りる。
 政宗は涙目になりながら、の一連の行動を見ていた。だが、今だ声はでない。

「私をモノにしようなんて、10年早い。もっと男を上げてから出直せ」

 外されたボタンを付け直す。
 その姿は凛として美しかった。今のような状態でなければ、軽口の一つや二つ、そして、口説き文句の一つも言えたであろうが、それすら出てこない。

「それに悪いが、私にも一応恋人はいるからな」

 机の引き出しから、シルバーの指輪を取り出し薬指にはめた。

 そいつから奪ってやると、意識が朦朧としつつ決心した政宗は、それから卒業まで、を口説こうとしては返り討ちに合う事になる。


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卯月 静 (『女先生に玉砕する伊達君』企画に提出)