食らえっ! 必殺ロケットパーンチ!





 大海原に船を出し、各国のお宝を探す海賊。
 雄雄しい海の男達。
 その海賊の頭は、一度戦闘となれば、それはさながら、鬼の如し。


 長宗我部軍の名物といえば、あの巨大なカラクリ。
 国を傾けんばかりの財力と情熱と愛情を注ぎ込んでいる。
 その威力は、見合ったものではあるが、如何せん一度壊れてしまうと直すのは至難の業。
 そして、滅多にカラクリを出すことはないが、調整はまめにする必要がある。少しの調整の失敗で壊れかねない。

 今日も今日とて、元親はカラクリの調整を行っていた。それは上機嫌でだ。今にも鼻歌を歌いそうなくらいに、機嫌がいい。
 鬼と称される彼が、幼い頃は座敷に引篭もり、女物の着物を着ていたというのはあまりに想像できないが、今の嬉しそうな顔も、戦場での彼からは想像できないだろう。

「アニキ、調子はどうスか?」
「順調だぜ」
「この間つけた機能は、やっぱ正解でしたね!」
「おうッ! あれのお陰で、いつも以上に楽勝だったな。また何か付けるか」
「今度は目から、光線出すとかどーっすか?!」
「おお! いいなそれ!」

 元親はウキウキと部下と、カラクリ談義に花を咲かせている。
 晴れた日に、このカラクリの手入れをするのが一番幸せな時なのかもしれない。そう元親が思っていたときだった。

 ゴツンッ!!!!

「ってーなっ!!!! 誰だ、頭にぶつけやがったのはっ!!!」

 後頭部に直撃し、頭を抑えながら、何かが飛んできたであろう方向を睨む。
 元親に睨まれたら、そこらの雑魚は震え上がる。だが、睨まれた人物は震えるどころか、彼を睨み返している。

「…………」

 立っていたのは、この長宗我部の財政を任されている女性。名をといい、元親の部下の娘だが、幼い頃から一緒に育ち、元親の過去を知っているせいか、容赦がない。

「元親様……この金はなんです?」

 紙を元親の目の前に突き出し、にっこりと尋ねる。
 それは数日前の日付の入った請求書。

「説明、してくれますよね」

 質問してるはずなのに、彼女の語尾にははてなの印はない。その声は質問ではなく、強制。
 下手なことを言えばきっと彼女の逆鱗に触れるだろう。そう思うと、中々言葉が出ない。

「四国を、民を守るため武力を上げる。その為にからくりを作ったことは目を瞑りました。それがたとえ、国を傾けそうになったとしても」
「だろっ!!」
「ですが……この、『ろけっとぱんち』ってのは何ですか! どうして毎回請求がくるんですか!」

 先ほどまで、比較的穏やかな口調だったのが、強くなる。

「そ、それは、だな……」
「ろけっとぱんちに、いくら金が使われてるのか、分かってんのッ? それを……ポンポン、ポンポン発射させやがって……。今後一切、ろけっとぱんちの使用は認めませんからッ!」

 あまりに急な使用禁止に、元親は慌てる。

「ちょっ!! 待て!! 使い過ぎたことは悪かったと思ってる!! だが、ろけっとぱんちは漢の浪漫だ!!!」

 ろけっとぱんちは、部下にも好評で、元親がずっと付けたいと思っていた機能だ。
 大砲などではなく、からくりの腕が遠くへ飛ぶ。
 これを禁止されたのでは、からくりの魅力が減ってしまう。
 だが、元親の「漢の浪漫」発言は、の逆鱗に触れたようで……。

「そんなに、ろけっとぱんちが好きですか……。なら、身を持って味わいやがれ」

 低くそう呟き、は拳を握る。
 次に起こるであろうことに、元親は顔を青くする。

「ちょっと待てっ!!」
「問答無用っ!!! 食らえっ! 必殺ろけっとぱーんちっ!!!!」

 ドゴォッ!!! という音と供に、元親の顔にの拳は綺麗に入った。
 その威力は、どこから出てくるのか、というくらいの物で、周りにいた子分達は震え上がる。
 元親はに殴られ、飛ばされている。
 顔からは鼻血を出している。

「それ……ろけっと、ぱんちじゃ……ね……え……」

 元親は、そのまま意識を飛ばし、その場に倒れ込んだ。
 は、倒れた元親に冷たい一瞥をくれ、その場を後にする。

 ろけっとの様に腕が飛ぶのではなく、殴られた方が、ろけっとの様に飛んでいく。これもある意味ではとけっとぱんち。
 長宗我部軍のろけっとぱんちは鬼をも凌駕するのだという噂が、各国に流れた。


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卯月 静 (『拳で殴り合い上等!』企画提出)