ザ・テンペスト
【 spirited girl 】



 昔は侍の国と呼ばれたこの国は、天人という輩がきてから侍なんていなくなった。
 天人に占領されている今の状態を快く思わない人もいて、攘夷だといっているやつもいる。
 しかし、本当の昔。まだ天人が来てなかった時代の心を持った侍は今や絶滅してしまったに違いない。

 なんといっても、目の前で柄の悪いお兄さん方2,3人に絡まれて、困っている女の子がいるのに誰も助けようとしない。
 全員が全員、「かわいそうに」といった視線を向けて通りすぎるだけだ。

「ったく……」

 その様子を見ていた、一人の人物は溜息を盛大に付いた。
 そして、通行人の視線の中心に向かう。

「はいはい、お兄さん達。その辺で止めとけば? 天下の公道で自分達がモテないって宣言してどーすんの」

 男達と女の子は声のする方に視線を向ける。
 そこに立っているのは女。
 長めの髪を二つに括っていて、男達を睨んでいる。
 名をという。

「なんだぁ。テメェ。女のクセに出しゃばりやがって」
「それとも何か? おめぇが俺らの相手してくれるってのかぁ?」

 男達は怒りながら、あるいはニタニタと嫌な笑い顔を貼り付け女のところに来る。
 数人の男達に囲まれながらも、の顔は変わらない。

「女にモテたいならキャバクラも何でもいけば。金さえ払えばあんた等みたいなヤツでもやさしーく相手してくれると思うけど?」

 この状況に関わらず、は挑発する。
 助けに来たのか、はたまたただ喧嘩を売りに来たのか分からない。
 周りには人だかりができていて、傍観者達はハラハラと見ている。もちろん、誰も助けようといった素振りは見せないが。

「テメェ!!!」

 の挑発に限界がきたらしい。男は行き成りに殴りかかる。
 が、振り上げた腕は下ろされることがなかった。
 誰かに腕をつかまれているのだ。

「すいませんが、うちの姫さんに手ぇだすのは止めてくれませんかねィ?」

 声と共に腕をつかまれていた男は横に投げ飛ばされた。
 男の立っていた位置には別の、腕を掴んでいたであろう男が立っている。
 男というよりは、まだ少年のようだが、帯刀していて、その服装はここに住む者なら誰でも知っている制服。

「真選組!?」

 男達は声をあげる。
 武装警察真選組。一応警察だが、その行動は派手で、容赦がないと評判だ。
 しかも、目の前の少年の制服は平隊士のそれとは違う。

「いい加減にしねぇと痛い目みますぜィ。土方さんが」
「ちょっと待て! おい、総悟、そりゃぁ、どういう意味だ?」

 後ろから別の男の声が割り込む。
 黒髪の目付きの悪い男。言わずとしれた、真選組の副長だ。

「そのまんまの意味でさァ。土方さんが痛い目をみるんでさァ」
「おーし、よく分かった。こいつらと一緒に叩っ斬ってやっからそこで大人しくしてろ」

 土方は刀に手をかけ、目の前の総悟と呼ばれた少年もろとも斬ろうとする。

「あーもう。土方さんのせいでアイツら逃げちゃったじゃないですか」

 の声に二人がみるとソコには男達はいなくなっていた。
 土方が現れた時に逃げたのだ。
 それに気付き土方は舌打ちをしながら、刀に掛けていた手を下ろす

「あ、あのぅ……。ありがとうございました」

 絡まれていた女の子がお礼をいいに寄ってくる。

「これも仕事のうちだから気にするな」
「これからは気をつけてくだせェ。ここらは物騒ですから」
「そうそう。こいつらは市民を守るのが仕事なんだから。これからは気をつけてね」
「はい! 本当にありがとうございました」

 そういって、女の子は去っていった。

「さぁて、私は寄るとこあるんで、先に帰っててくださいね〜」

 は軽く駆け出して、去っていこうとした。が、誰かに襟元を掴まれた。誰かと言うのは考えるまでもないのだが。

「ちょ、ちょっと土方さん!? 私これから行くトコが!!」
「無鉄砲なことをした理由を話した後でゆっくり行ってこい」
「そ、総悟! 助けて!!」
「俺も話が聞きてぇんで、そのまま土方さんに屯所まで連れて行ってもらってくだせェ」

 どうやら二人は相当怒っているらしい。
 沖田が助けてくれないとなると、自分に逃げ道はない。

「いーやーだー!! 放してぇー!!!」

 の叫びは寂しく空に消えていった。

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卯月 静 (06/09/04)