ザ・テンペスト
【 first meet : 後編 】



 沖田に置いていかれて、再び迷子になりつつ、なんとか再び沖田を見つけることができた。
 当の沖田はニヤニヤと笑いながら、を待っていた。
 そのままは何処かの部屋に通された。
 沖田は偉い人を読ん来ると、を残し、出て行った。

 その間、は周りを見渡す。
 特に変わりのあるような部屋ではないが、何もすることがないと見回してみるのは人間の心理だろう。
 少し建つと、襖が開いた。

 まず入って来たのは、ゴリラのような……もとい、体格のいい男性。

 その顔には人の良さがでていて、は騙され易そうな人だなと思った。
 その後ろからは、目付きの悪い男性。
 そして、最後に沖田が入って来た。

「おい、お前名前は?」

 目付きの悪い男はを睨み、尋ねるが、その雰囲気はどーも恐い。

「土方さん、そんなに睨んじゃが怯えるじゃないですかィ。だから土方さんはモテないんですぜィ」
「うるせぇー、てめぇは黙ってろ」

 土方と呼ばれた黒髪の目つきの悪い男は総悟を睨んでいる。
 今にも抜刀しそうな雰囲気だが、沖田の方は飄々とした態度を崩さない。

「まあまあ、二人とも、彼女が恐がってるじゃないか。君の名前を教えてくれないか?」

 二人を宥めてに名前を尋ねる。
 男性はにこにこと尋ねているが、は少し睨み答える。
 しかし、それはの名前ではなく、別の言葉だった。

「最初に総悟に会った時も思ってたんですが、貴方達は礼儀というものすら知らないんですか? 人に名前を聞くのなら自分から名乗るのが礼儀でしょう。なのに、総悟といい、そこの目付きの悪い人といい、一から覚え直したらどうですか?」

 男性三人は呆気に取られている。
 いや、正確には呆気に取られていたが、沖田は笑いだし、土方と呼ばれた男は眉を寄せ先ほど以上にを睨み、もう一人の男性も笑っている。
 その様子に少なからず不快感を感じつつ、は大人しくしていた。

「はっはっは。確かにその通りだ。俺は真選組局長近藤勲だ。で、こっちが」
「副長土方十四郎」
「総悟のことは知ってるか。で、君の名前を聞いていいかな」
「はい。です」
「総悟に聞いたんだが、兄に頼まれてここに来たとか? でも、妹が来るといった連絡を隊士の誰からも受けてはいないんだが……」

 近藤の言葉には驚く。
 ここで女中をしろ、と手紙と地図を送ったのなら、既に連絡はあると思っていた。
 だからこそ、単身でここまで来たのである。

「え、でも兄から手紙が間違いなく。それに兄はここで働いていると……」
「トシは聞いてるか?」
「いや」

 その返答にますます、は不安になる。
 ここで外に放りだされたら行くところはない。
 どうしようと思っていたところで外から(多分隊士であろう)声がかかった。

「失礼します、局長。速達が来てますが……」
「分かった、後で貰おう」
「いえ……それが……差出人が……」

 手紙くらい後でいい、と近藤が言ったが、隊士は食い下がる。

「差出人がさんなんですが……」

 その名前にそこにいた4人は反応した。
 といっても、と男性3人の反応の意味は別の物ではあったが。

「わかった。貰おう」

 近藤は手紙を受け取り、それを読む。
 そして、読み終わった後、近藤は思いっきり溜息を付いた。
 隣にいた、土方にそれを渡す。ちゃっかり沖田は覗きこんではいる。
 そして、読み終わったのだろう土方は眉を寄せて不機嫌になってる。

「今、気にのお兄さんから連絡を貰ったよ」
「あー……、やっぱり兄からの手紙だったんですね」

 あの兄貴は相変わらずなのだと思った。
 手紙の内容は読んでいないが、きっと『妹のがそっちに女中しに行くからヨロシク☆』といったことが書かれてあるのだろう。
 それもあの兄のことだ、が此処に着く日に手紙が着くように出したのだろう。
 変なところで計画的なのだ。頭がきれるくせに、その頭はこういうとこで思い切り発揮する。

「名前を聞いた時点で気付くべきだった。から連絡を受けたからには君は責任をもって真選組で雇おう」

 本当に何故が名乗った時に気付かなかったのだろう。と3人は思った。
 あの男ならこういうこともやりかねないのに。

「ええと、それはここで暮らしてもいいということでしょうか?」
「ああ、そうだ。歓迎するよちゃん」
「まあ、仕方ないからな」
「良かったじゃないですかィ」

 の言葉に反応は三者三様。
 だが、何はともあれ、路頭に迷うなどということは免れた。

「これからよろしくお願いします」


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卯月 静 (06/10/07)