ザ・テンペスト 【 letter 】 いつもの日常のいつもの風景で、いつもの様に手紙が来ていつもの様にはより分けていた。 その中に一つ、宛の手紙があった。 差出人は「」つまり、の兄からの物である。 「あんまり、中身読みたくないなぁ〜……」 あの兄のことだ、きっとまともなことは書いてないだろう。 この手紙に少しでもまともな―例えば、の生活の様子を聞いたり、といったこと―があれば明日はきっと雨だろう。 読むのはイヤだが、だからといって、読まないとそれも後で面倒なことになりかねない。ここは腹を括って読むしかない。 そう決断し、は封筒をあけた。 そこには一文だけ。 『もう少しでそっち戻るから伝えとけ』 とある。 他にの生活の様子を聞いたり、真選組の様子を聞いたり、向こうでどうだったかとか書いてあったりはしない。 ただ用件のみ。 「そーいや、私がここに来ることになったときもこんなだったっけ……」 は遠い目をして、思い出す。 はの手紙により、ここに来ることになったが、その手紙には「真選組って所で働け」とだけ書かれてあった。 一応地図は入っていたが、それは使い物にならないお粗末な物で案の定迷子になった。 なんとか、真選組に来ることはできたが、下手すると路頭を彷徨っていただろう。 「とりあえず、近藤さん達に伝えなきゃ。あ、今日は近藤さんいないんだっけ。じゃあ、土方さんに言っとけばいいか」 知らせがのところに来た以上、あの兄のことだ、きっと他の人には手紙は出してないだろう。 は土方の部屋に向かった。 部屋にいればいいのになぁ〜。と考えながら。 「土方さん、失礼します」 襖を開けた。 が、ソコに居たのは黒髪の目付きの悪いヘヴィースモーカーではなく、栗色の髪の何を企んでいるのか分からない少年がいた。 「総悟、なんでそこにいんの? 土方さんは?」 「今日から俺が副長になったんだぜぃ。は知らなかったのかぃ?」 ニヤリと笑い沖田は答える。 「そーなの? んじゃ、土方さんは?」 は小首を傾げて、聞いた。 その仕草は只でさえ実年齢より幼い印象を受けるが尚のこと幼く見せていた。 「信じるな」 急に降って来た声と共に頭を叩かれた。 叩いた犯人は先ほど話題にでた土方で、は叩かれて土方を睨む。 もちろん、睨んでも迫力も何もなく、尚且つ土方の方が背が高い為に上目遣い気味になり、恐くもなんともない。 そもそも、たかが小娘が鬼の副長を恐がらせることなどそうはできまい。 「総悟の言ってることをいちいち間に受けるな。こいつの話は全部疑え。で、俺に何の用だ?」 「あ、そだった。近藤さんが居ないから土方さんに一応知らせておこうかと思ったんですけど」 促されて本題を伝える。 「兄貴が帰ってくるんです」 「俺が帰って来たんだよ」 「……え?」 の声に被さって男の声が聞こえた。 そして、土方と沖田をみると心なしか、驚いているようにも見える。 もしかして……。そう思い振り返ってみると、そこにはに面影の似た男が笑顔で立っていた。 「兄貴!」 「!」 「さん!」 三人とも同時に声を上げる。 呼ばれた本人、は「よっ」と軽く挨拶を返している。 「お前、戻ってくんなら連絡くれーしろよ」 と土方が呆れて問えば。 「連絡? したぜ。手紙を宛に出してただろ」 と答えた。 宛に出したといわれ、皆の視線がに集中する。 「確かに手紙は私宛に来たよ。……今日ね」 「だろうな。今日着くように出したからな」 戻るという知らせを戻る日に着くように出してどーするんだ。 三人が避難の目を向けるがが悪びれた様子はない。 が帰って来たことは嬉しいが、これからこの男に振り回されるんだろうと、そして一番の被害を受けるのは自分だろうと思うと吐き出した煙草の煙に溜息が混ざっているように思えた。 終 戻る 卯月 静 (06/10/17) |