ザ・テンペスト
【nap】



 ぽかぽかな陽気の昼下がり。
 今昼寝をしたらきっと気持ちいいだろうなと思う。
 が、今昼寝をしてしまったら、隊士達の夕飯が遅れてしまう。
 一人で作っているわけではなく  一人で作れる量ではない  昼間は雇われたお手伝いさんが来てくれる。皆、年配の女性で、手際はいい。
 にもいろいろ教えてくれて、今では立派に仕事をこなしている。
 それでも、住み込みで働いているのはだけだから、夜に仕事を頼まれることもある。
 隊士達は皆優しく、無茶な注文はつけないが、夜遅くの用事だと、やはり睡眠不足にもなる。
 朝は隊士達を起すという仕事もあるわけで、あまり夜が遅いと昼間が眠い。
 で、今まさに、はその状態だった。

「眠い……昼寝したい……」

 立ったまま寝れそうな状態で調理場へ向かう。
 その途中に、居るはずのない人物を見つけた。

「人が睡眠不足なのに、気持ちよさそうに寝やがって……」

 その人物は柱にもたれ、アイマスクをしてぐっすり眠っている。
 その光景は、睡眠不足なにとってみれば、腹が立つことこの上ない。
 目の前で眠っているのは、真選組一番隊隊長、沖田総悟。彼は今巡回中だが、サボリ魔な彼のことだ、きっとサボりだろう。
 は沖田のアイマスクを取る。

「何するんでィ」
「総悟、今巡回じゃなかったの。また土方さんに怒られるよ」
「返り討ちにするから、関係ねェ。ほら、それを早く返しなせェ」
「ヤダ。人が睡眠不足なのに、すやすや寝やがって、ムカツクから返さない」
「じゃあ、も寝ればいいじゃねぇか」

 返せと手を差し出す沖田に、嫌だという

「とりあえず、そこに座りなせェ」
「何で?」
「いいから」

 アイマスクは握ったまま座る。
 と、沖田はを引っ張った。

「うわっ!!」
「色気のねえ声だなァ」

 そして、そのままは沖田の膝に頭を置いた状態、所謂、膝枕をしている。
 慌てて起きようとするが、沖田に押さえられていて起きれない。
 しかも、持っていたアイマスクは取られていた。

「疲れてるんなら、少し休んだ方がいいぜィ」

 沖田らしくない優しい手つきで髪を撫でられ、は段々と意識が遠退いて行く。
 早く起きなきゃ、夕飯が、と思うが睡魔には勝てず、とうとう、の意識は夢の中へ行ってしまった。

「さって、俺ももう一眠りしやすかねィ」

 から奪い返したアイマスクを再び付け、目を閉じた。




「どういう状況だ、コレ……。しかも、二人ともサボってやがるし」
「そういうな、トシ。いいじゃないか、微笑ましくて」
「十四郎は羨ましいんだろ。自分も膝枕して欲しいんだよ」

 呆れる土方に、ニコニコと笑顔の近藤。それに加え土方をからかう発言をする
 の発言に怒鳴りそうになる土方だが、が起きるといわれ、慌てて口を噤む。

ちゃん、最近夜遅かったようだしなあ」
「それはそうだが、総悟までサボるのを許すわけにはいかねーだろ。コイツはいつものことなんだしな」
「休めっつても、は素直に休まないだろうから、総悟なりの優しさだろ」

 沖田とが寝ている姿は微笑ましい。
 それに、最近が夜遅くまで仕事をしているのを土方も知っているから、ここでを起すのは忍びない。
 最も、沖田の方は、今すぐにでも怒鳴って起してやりたいのだが。

「もう少し寝かせてやろうぜ。な、総悟」
「なんでィ。さんは気づいてたんですかィ」
「総悟?! 手前ぇ、起きてっ!!」

 の問いかけに、総悟が反応した。アイマスクを上げて、三人を見ている。

「……んぅ……」

 総悟に怒鳴りそうになった土方だが、が身動ぎしたことで、一瞬止まる。
 起してしまったか、と思ったが、起きる気配はない。それに土方はほっとする。

「総悟、もう暫くに膝貸してやってくれ。俺はおばちゃん達に事情話してくるわ」

 暗に、起すなと言っては食堂に向かう。

「いいんですかィ、土方さん。さん、いっちまいましたぜィ」

 土方は溜息を付く。

「しょうがねぇな。今日は大目に見てやるよ」
「やっぱり、トシもちゃんに弱いんだな」

 鬼の副長らしからぬ彼の様子に、近藤は笑いながら土方の背を叩く。
 に弱いのは何も土方だけではない。隊士の殆どは彼女に弱い。
 土方は近藤のその反応を無視し、自分の着ていた上着をに掛ける。

「土方さん、やっさしィーー」

 土方はそれを無視し、仕事に戻ると言ってその場を後にした。

「やっぱり、ちゃんには弱いんじゃねえかィ」
「それは総悟もだろ」
「近藤さんは分かってたんですかィ」
「トシとだって気づいてたさ」

 が倒れる前にと言う思いと同時に、彼女が変な場所で転寝しないように総悟は自分の膝を貸した。
 隊士はのことを大切にしている。しかし、だからといって、不埒な者が居ないとは限らない。の部屋の両隣はと近藤の部屋だ。何かあれば駆けつけることができる。
 彼女自身は自覚がないだろが、隊士の中には淡い想いを抱いている者だっているだろう。それならまだマシだが、男所帯の中に只一人の女性となれば……。
 隊士達はの妹ということで、恐くて手は出せないだろうが、それでも理性が外れてということもある。
 そんなことは無いだろうとは思うが、沖田としてはそういった状況を少なくしたかったのだ。
 自分が一緒にいるところを隊士達が見れば、手をだそうとする輩も減るだろう。というか、変な虫が付くのを防ぎたかったというのが本音だが。
 きっと、近藤はを護るためだと思っているだろう。

は無防備ですからねィ」

 あえて、そういった思いを隠して答える。
 が目を覚ますまでは、彼女を独占できる優越感に浸りながら。


終 戻る

卯月 静 (08/04/29)