ザ・テンペスト 【bath time】 仕事の後にひとっ風呂浴びるのが楽しみだ、という隊士は多くいる。 各々の仕事を終え、隊士達は風呂に入るところだった。 屯所の風呂は大浴場。大きな風呂に、湯が張っていて、周りにはシャワーがついている。まあ、簡単に言えば、銭湯の風呂と一緒だ。 部屋に一つ一つ風呂などつける金などない。そこは共用だ。 もちろんシャワー室もあるにはある。昼間は湯が張ってないから、昼間使ったり、夜勤明けの隊士が朝に使ったりするのはシャワー室だ。 だが、やはり、風呂の湯船に浸からないと、風呂に入った気にならない。そう思う奴は結構いるわけで、シャワー室は滅多に使われない。 大勢の隊士達が、風呂を楽しもうと、大浴場に設置してるシャワーの蛇口を捻った……。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 適度な温度の湯が出来るのでなく、水が勢い良く出てきた。 予想に反する水のシャワーの破壊力は抜群だ。 叫び声をあげたのは一人や、二人ではない。数名の隊士達は冷たい水を頭から被った。 「というわけで、屯所の湯沸しが壊れたから、暫くは風呂屋へ行くしかなくなった」 皆を集めて、近藤が言う中、数名の隊士は鼻水を垂らしている。無理も無い、裸で水を被れば風邪も引く。その上湯沸しが壊れている為に、暖かい湯を被ることもできず、ガタガタ震えたままだ。 「これでちょっとはマシじゃないかと……」 「……あったけぇ…………」 は濡れたタオルをレンジで温めてきたものを配る。 湯を沸かす時間がないから、レンジで温めたのだ。これで少しはマシではないかと。 それは効果があったようで、隊士達の振るえも程なくして止まった。 「久しぶりの大浴場〜」 はウキウキと、足取り軽やかに歩く。 その後を、近藤、土方、沖田、そして、が付いて行ってるのだが、皆面倒だという顔をしている。 「なんで、はあんなにはしゃいでんでィ」 「いつもシャワーだから、つまんないんだってさ」 沖田の問いに、が応えたが、沖田は前を歩くに向かって「餓鬼」と呟く。 「あっれ〜。真選組御一行様じゃん」 銭湯に着くと、聞き覚えの在る声がした。声の主は、死んだ魚のような目の、万事屋の男、坂田銀時とその従業員の神楽と新八、そして、新八の姉の妙だ。 会いたくない顔に会ったとばかりに顔をしかめる土方に、神楽とにらみ合う沖田。そして、近藤はというと。 「ここで貴女と会えるとはこれはやはり、俺達は運命の赤い糸で……グフゥゥゥゥ」 妙に抱きつこうとして、やはり、いつもの通りに殴られた。 「で、何で多串君達もここにいるわけ。真選組には大きな風呂があるんじゃないの」 「うっせーな。俺だって、こんなトコまでわざわざくんのはやなんだよ。屯所の風呂が壊れてなけりゃ、こねえよ」 「それは災難だね。ご愁傷様」 言いつつ、銀時の顔は嬉しそうだ。きっと、土方の不幸が嬉しいのだろう。 「くそ、胸くそ悪ぃ。俺は帰る。風呂は明日でいい」 「んなこと言うなよ、ここまできたんだからさ」 踵を返し、歩き出す土方の首根っこを、が捕まえる。 「あれ? 見ない顔じゃん。そちらさんも真選組……?!」 「ああ、真選組で隊士やってるだ。『始めまして』万事屋さん 」 を見た瞬間に、銀時の言葉がつまる。 「あ、ああ、始めまして……」 「銀時だっけ? は知ってるよな? 俺はコイツの兄」 「さんのお兄さんなんですか。始めまして、僕は志村新八、こっちが神楽ちゃんで、こっちが姉の妙です」 固まったまま動かない銀時を他所に、自己紹介が始まる。 真選組といろいろ交流があるから、のことは知っていたが、万事屋側の誰もとは面識がない。 「神楽ちゃんに、妙ちゃんね。こんなに可愛い子とお近づきになれるなんて、至極光栄だよ」 周りの男共とは全く違う物腰に、言葉に、笑顔。お世辞と分かっていても、神楽も妙も、の言葉に頬を赤らめる。 「!!! 幾らお前でも、お妙さんは渡さんぞっ!!! ゴフゥ……」 復活した近藤は、に向かって叫ぶが、妙によって、再び地に沈められた。 「いい加減、入らないの? 折角きたんだしさー」 の一言で、各々風呂屋の暖簾を潜る。 ただ、銀時だけは、を見つめたまま暫くは動かなかった。 ギャーギャーと騒ぎながら、入っている男共。が、女湯からの声に、男共の行動が止まった。 『ちょっ!! 神楽ちゃんドコ触ってんのっ!!!』 『、意外と胸あるナ。どうやったら、大きくなるネ?』 『神楽ちゃんは、成長期だから、そのうち大きくなるって。って、だから、揉むなぁぁぁ!!!』 『あら、ホント。形も綺麗よね』 『って、妙ちゃん!! 何でアンタまで触ってんのっ!!!』 止まったどころではなく、近藤、銀時、沖田の三人は壁際に移動している。 「ちょっと、三人とも何してるんですかっ!!」 「何って決まってるだろうがよ。男のロマンだ」 「いやいや、そんなカッコつけても無駄だから。でか、なんで、沖田さんまで」 慌てて止める新八にとって、近藤、銀時はともかく、沖田までというのが意外だった。 「総悟もまだ餓鬼っつーことだろ」 何食わぬ顔でいる土方の一言に、新八はさすがだなーと感心した。しかし……。 「ムッツリな土方コノヤローに言われたくねーぜィ」 「俺はムッツリじゃねえよ」 「何言ってんだか。この間はの下着姿見たくせに。その前は押し倒してましたっけねェ」 「あ、あれはがっ!!」 ニヤニヤと、笑いながら言う沖田に腹は立つが、事実は事実。勿論嵌められたのではあるが。 「覗きはいかんよ、多串君」 「だから事故だっつってるだろっ!!」 叫ぶ土方に、ニタニタと笑いながら、動じない銀時。 「大変だねー真選組も、副長が覗き魔で強姦魔だなんて」 「旦那、分かってくれやすか」 「手前等……」 叫ぼうとした土方だったが、再び隣から、聞こえた声に止まる。 『姉御も、も羨ましいアル』 『そういえば、神楽ちゃん。誰かに揉んで貰うと大きくなるって言うわよ』 『あー確かにいうよね』 『じゃあ、も誰かに揉んでもらったアルカ?』 『いやいや、そんな訳ないから』 『でも、真選組は男ばっかアル。揉んで貰う相手は選り取りみどりアル』 『でも、テクニックがないと大きくならないって話も聞くわね』 『じゃあ、チンピラ共じゃ無理アルな』 『神楽ちゃん……』 態としているのだろうか、そう思うくらい、赤裸々な女性陣の会話に、さすがの男性陣も赤くなる。 「すげえ会話だな……」 「そ、そうですね……僕等が隣で入ってるの忘れてるんですかね……」 「ちゃん……嫁入り前なのに……てか、俺だってお妙さんとお風呂いっしょに入りたいのに……」 土方と新八は呆れ気味。 そして、近藤はとうとう、ブツブツと言い出し、ほかの男性陣は居心地の悪さを感じてもいた。 だが、だけは平気な顔でいる。 「だっけ? お前はなんで平気なわけ」 「ん? 俺? だって、俺、女の体なんて見慣れてるし」 爽やかな笑顔で、爆弾発言をされ、皆固まった。 真選組の三人はがモテることを知っているし、ガールフレンドが多数いるのも知ってるが……。 「お前ェはそういう奴だったな……」 思いっきり、呟きと共に、土方は溜息をついた。 『でも、心配だわ。真選組に住み込みで働いているんでしょ? 飢えた狼に羊を放り込んでおくなんて、万が一ってことも……』 『んー、妙ちゃんが心配してるようなことはないよ。この間、土方さんに着替え見られたけど』 『あのマヨがアルか! クールぶってる男ほど、危険だってマミー言ってたアルよ』 『でも、下着くらいだしねー。それに帝富丹ーのネックレス買ってもらったし』 「買ったの、多串くん?」 「…………」 「買ったんですね……」 帝富丹ーといえば、結構値の張るジュエリーブランドだ。高給取りとはいえ、そこのネックレスといえば、痛い出費だっただろう。 その場の男共は少し土方に同情した。 「ふぅー。さっぱりしたぁ〜」 「やっぱり大きいお風呂はいいわね」 「家の風呂じゃ泳げないアル」 さっぱりと、満足気な女性達とは裏腹に、あんな会話を聞いてしまったせいか、目のやり場に困る。 別に彼女達がおかしな格好をしているわけではないが、どうしても視線が胸元に行ってしまうのだった。 終 戻る 卯月 静 (08/06/17) |