ザ・テンペスト
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 いつもは騒がしい屯所も、夜、しかも真夜中となると静かになる。
 俺、は寝付けなくて、水でも飲もうと食堂に向かっていた。
 真夜中の屯所は電気も点いていなくて、暗い。月明かりがあるが、建物自体は新しいわけでもないし、明かりである月の光は反対に薄気味悪さを出しているともいえる。
 監察なんてやってれば、暗くて恐いところも潜り込まなければいけないから、俺にとってはさして不便でもない。夜目は効く方だし。

「ダ、ダメッ!!」
「……ちゃん?」

 聞き覚えのある女の子の声がして、俺は頭に疑問符を浮かべながら、声のしたであろう方向へ向かった。

「あっ! …………もっと、手加減して……」
「何言ってんでィ。がやるって言い出したんだろ」

 声がしたのは、沖田隊長の部屋。ちゃんは真選組の女中をしていて、沖田隊長とも仲がいい。だが、こんな時間に、若い男女が同じ部屋でとなると…………。
 ダメだダメだ。変な想像するなよ、俺。

「で、でも、私初めてだし……。ちょっとくらい……ああっ!!」
「そんなにデカイ声出すと、他のヤツに聞こえちまうぜ」
「しょうがないじゃん、出ちゃうんだもん」
「ほら、止まってるぜ。動かねえと楽しくねえだろ」
「あっ! ダメっ!!」

 ちょっと、ちょっと、ちょっと!! あんた等屯所の部屋でナニやっちゃってんのぉぉぉぉ!!
 本当は叫びたい衝動に刈られたが、今回のことは忘れようと、俺はそのまま自分の部屋に戻り布団を頭から被った。




 ガヤガヤと騒がしい食堂。山崎は結局、昨晩のことが気になって眠れなかった。しかも、チラチラと沖田とを見てしまう。
 沖田は何食わぬ顔で食事をしているが、は眠たそうだ。
 眠そうなに、が尋ねた。

「眠そうだな。寝不足か?」
「んー……。昨日、総悟がなかなか寝かせてくれなくて」

 あくびをしつつ答えたの言葉に、食堂にいた隊士全員の手が止まった。
 その隊士達の様子を見て、沖田は面白そうに笑っている。

「何言ってんでィ。最後の方は、からせがんでただろ」
「そうだけどさ。初めての相手にはもう少し優しくしない? もう無理だって言ってるのにさ」

 平然と会話する沖田とのに対し、その場に居た隊士達は顔を赤くしたり、青くしたり、中には、股を押さえて席を発つ者もいた。
 山崎も例外ではなく、昨日の偶然聞いてしまった会話を思い出し、顔を赤くしていた。
 普段は取り乱したりしない土方が、多少うろたえながら、に聞いた。

「お、おい、。お前昨日の夜、総悟の所にいたのか」
「うん、そうだけど」

 きっぱり、はっきり言い切ったに、土方は固まった。
 山崎は視線を感じ、そちらをみるとニヤニヤと笑う沖田と目が会った。

「山崎は知ってるよなぁ、が俺の部屋にいたこと」

 瞬間、全員の視線が山崎に集まる。興味津々半分、嘘であってくれというのが半分といったところだ。

「えっ!? 俺は、別に…………はい、知ってます」

 自分は関係ないと、知らないと逃げようとしたが、沖田に睨まれ、正直に肯定した。
 すると、打ちひしがれるものや、落胆の溜息が聞こえてきた。

「え、退、昨日の夜いたの?」
「う、うん……」
「なら、入って、混ざればよかったのに」
「ええっ!!」

 の爆弾発言に、山崎は勿論、他の者も目を見開く。

「そしたら、三人でできたのに。今度相手して?」
「でも……」
「私が相手じゃやっぱ不満か……。それなら総悟と三人でもいいしさ、ね? だめ?」

 真っ直ぐ言うに対し、山崎はあらぬ想像をしてしまい、顔を真っ赤にして、俯いた。
 その山崎の反応に、沖田は腹を抱えて笑っている。

「おい、っ!! お前何を言ってんだよっ!!」
「何ですかィ? 土方さんもやりたいんすかィ?」
「い、いや、俺は……」

 聞かれた土方は、顔を赤くして、口ごもる。
 と、それまで無言だった近藤が、叫んだ。

ちゃんっ!!!! 俺はちゃんをそんなふしだらな娘に育てた覚えはありません!!」

 いや、お前は育ててないだろう。と、その場の皆が無言でツッコンだ。
 言われた本人であるは、キョトンとしていて、何を言っているのか分からない様子だ。

「ふしだら? 近藤さん何のこと言ってるんですか?」
「だから、もっと自分を大切にしてって…………ーーー!! お前、兄だろ何か言ってーーー」

 相変わらずわけが分からないと言う様子のに、近藤はとうとう、に泣きついた。
 は、溜息を吐き、に視線をやる。

、お前夕べ、総悟と何やってたんだ?」
っ!! お前ェ、何言ってっ!?」

 直球な物言いに、その場の皆は焦る。女の子であるの口から何をとんでもないことを言わせようとしてるのだろうか。
 は兄だから、聞いても妙な気は起こらないだろうが、ここには他の隊士だっているのだ。実際数名は席を立っているのだから、の口からそんな事を聞いた日には、また数名は駆け出すことになるだろう。

「何って……」

 言うな、言うな!! 聞きたいけど、言わないでくれとは一同の思い。

「格ゲーだけど?」

 「…………は?」と言う言葉は見事隊士全員での合唱となった。

「お、お前、格ゲーしてたのか?」
「そ、総悟と?」

 土方、近藤は、に確かめる。
 は、そんなことだろうと思ったといった様子で、再び溜息。

「うん。今までしたことなくて、総悟に相手してもらってたんだけど、総悟全然手加減してくれなくて、一度も勝てなくてさ。何回も挑んだんだけど、結局一回も勝てなかったんだよね」

 格ゲーだと聞いて、一同は今までの言葉を反芻してみた。格ゲーをしていたのだと考えると別段可笑しい所は無い。

「土方さん達は、昨晩俺とが何をしてたと思ってやがってたんですかィ?」

 ニヤニヤと笑う沖田に、全員が嵌められたのだと直感した。
 はともかく、沖田は確実に皆が勘違いするように言葉を選んでいたはずだ。

「いや、何って……」
「これらから、ムッツリはいけねーや」
「誰がムッツリだっ!」
「違うんですかィ? のあーんな姿やこーんな姿想像したのは何処の誰でィ。最もそれは土方さんだけじゃねえみたいですけどねィ」

 言われて土方だけでなく、他の者も言葉に詰まる。嵌めた沖田に言い返したいが、のあられもない姿を想像したのは間違いない。

「ちょっと、総悟。意味分かんないんだけど」

 はまだ意味が分かっていないらしく、不満そうに、沖田の袖を引く。

「ああ、それは…………」

 ニヤリと笑い、に耳打ちする。
 すると、の顔は見る見る真っ赤になり、キッと皆を睨む。

「サイッテーッ!!!!!!」

 低く呟いた声は、食堂中に響き、はそのまま出て行った。
 それから、の機嫌を直すのに、近藤を初め、隊士達は必死だった。


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卯月 静 (08/08/26)