ザ・テンペスト 【 old friends 】 「つーか、なんでてめーがいるんだよ、ヅラッ!!」 「ヅラじゃない、桂だ。この味噌汁は塩辛いな、俺としてはもっと薄味の方が」 「人の食事に勝手に参加して、ゴチャゴチャ言ってんじゃねー!!!!」 まるで、万事屋の一員のように居座る桂とそれを蹴飛ばす銀時。 もうさほど珍しくもない光景に、新八は溜息をついた。 真選組から逃げ回っているはずの攘夷志士がどうしてこんなところで普通に朝食を取っているのだろう。普通なら攘夷志士が来た時点で通報するところだが、桂の場合はそうもいかない。 ピンポーン。 騒いでいる二人は放置して、新八は玄関に向かう。二人の喧嘩は止めても無駄だ。それよりも、ひょっとしたら客かもしれない訪問者の方が重要だ。 「はーい。どなたです……か……」 しかし、玄関のドアを開けた途端、新八は固まった。 「銀時いるか?」 それも無理もない。だって、目の前にいるのは、真選組である。今日は非番なのか私服だが、それでも今中に入られるのはマズい。 なにしろ、真選組の天敵である攘夷志士の桂がいるのだから。 「えっと……銀さんは、今、お客さんと話してます」 「あー、ひょっとして依頼人とか?」 「そ、そうです!! だから、次回に」 「じゃあ、これ土産、客の茶請けにでもしてくれよ、俺は隅の方で大人しくしてるから」 「ちょっ!! だから、駄目ですって、さんっ!!」 普通の客なら、をすんなり通しただろうが、今回ばかりはだめだ。ここで捕り物をやられては困るし、いつも見逃してはくれているが、何より万事屋は真選組に目をつけられているのだ。 「よー銀時、遊びにきてやったぜ」 とうとう桂とが対面してしまった。 最悪の事態を想像した新八はその場に崩れ落ちる。 が、から出たのは意外な言葉。 「お、小太郎、久しぶりだな」 「か、お前こそ久しいな」 「へ?」 まるで懐かしい友人にあったような口ぶりに、新八は呆気に取られる。 「あ、あの……お二人は、お知り合いなんですか……?」 「ん、そうだけど」 「ああ、そうだが」 恐る恐る聞いた新八に到って普通に答える二人。 「え……でも……」 真選組と攘夷志士。本来なら敵同士なはずなのだが。 「俺も攘夷戦争に参加してたんだよ」 「えっ! さんもっ!」 攘夷戦争に参加していたのなら、銀時や桂と知己でも不思議は無い。だが、彼は今真選組だ。 「まあ……いろいろあってな」 ソファーに座りながら、答えるは笑っているが、その表情は寂しげに見える。 「……僕、ちょっと買い物行ってきます」 新八は積る話もあるだろう、その場を外すことにした。 仮にも攘夷志士と真選組だ。懐かしくても、表では話すこともできないだろう、それに、自分に聞かれたくないことだってあるに違いない。 「……いい子だな」 「あー? そうでもねーぞ、口五月蝿ぇーし」 新八が出て行った方を見ながら、は呟いた。 「で、新八じゃねーけど、いいのか、お前」 「何が?」 「目の前に攘夷志士がいるんだぜ」 「俺今日は非番だし。非番の日まで仕事したくはないしな」 ニヤリと笑うを見て、相変わらずだなと、銀時は思った。 風呂屋であったときは驚いた。しかも、真選組になっているとは思っても見なかったが、その中身はあの時と変わってないようでもあった。 「しかし、。前々から聞きたかったのだが、どうして真選組に入った」 ストレートに聞く桂に、銀時はあきれたが、それは銀時も不思議に思っていたことだ。 「違うよ、小太郎。真選組に入ったんじゃない。俺は元々こちら側の人間だった。本来いるべきところに戻っただけだよ」 は攘夷戦争が終わる前に、戦線を離脱した。その時に何があったのか銀時は知らない。 「戻ったというのはどういう意味だ?」 「言っただろ。俺の親は元幕府の高官だ」 「しかし、お前は親を嫌っていたではないか」 あの頃は親を嫌って家を飛び出し、そして、攘夷戦争に参加していた。 「ああ、その所為であいつを傷つけた。だから、俺なりの罪滅ぼしだよ」 あいつというのが誰のことなのか、桂は分かっていないようだったが、銀時は心当たりがあった。 彼の妹であるのことだろう。 放任のように見えて、その実かなり大切にしていると沖田から聞いていた。 「さてと、これからデートだから、俺は帰るよ。待たす訳にいかないしな」 「……お前」 「小太郎。俺は、あいつが笑ってられるなら、何でもすると決めたんだよ。その為なら、裏切り者と罵られようが、昔の仲間を斬ることになろうが構わない」 立ち上がったに、桂は声を掛けたが、それはによって遮られた。 桂はの返答に、「そうか」と短く答えただけだった。 彼はそのまま、万事屋を後にし、部屋には桂と銀時だけが残された。 終 戻る 卯月 静 (08/11/08) |