ザ・テンペスト
【 Trick or Treat 】



 秋になったからか、最近は少し寒くなってきた。カレンダーを見れば、もう十月も終わる。
 早いものだと、感じながら、土方はいつものように、煙草をふかしながら書類の整理をしていた。書類の大半は始末書やら、修理費関係の物だ。すっかり慣れてしまったのは良いことなのか、悪いことなのか。いや、こんな物に慣れる必要はないのだから、悪いことなのだろうが、慣れてしまったものはしょうがない。
 この分だと、今度の休日も返上しなければいけなくなるかもしれない、と思っていたところ、スパンッと勢いよく襖が開けられた。

「誰だっ!! 声もかけねーで、開けやがった……の……は?」

 いつものように、鬼の睨みで、怒鳴り始めた彼の声は、最後には尻すぼみになった。

「土方さん! トリック、オア、トリート!!」
「お前……その格好はなんだ?」

 目の前のの格好に、怒鳴るよりも固まってしまった土方は、辛うじて尋ねる。

「何って、魔女ですよ、魔女」

 は室内だというのに、尖った帽子を被り、黒のワンピース姿で、どこから持ってきたのか、箒も持っている。土方だって、の格好をみれば、魔女の格好をしていることくらい分かるし、それが今日という日であるからしてるのも分かる。
 だが、胸元が見えそうなくらい、襟ぐりが広く、スカートはミニなワンピースを来たは、どうみても、ハロウィンの仮装というよりも、どこかの店のコスプレにしか見えない。

「というわけで、土方さん。お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ」

 はいまだに動かない土方に近づき、首をかしげながら、ハロウィンの決まり文句を再び言う。

「オラ、受け取れ」

 たまたま、昨日買った板チョコをに投げ渡す。は嬉しそうにそれを受け取る。

、首尾はどうでィ」
「土方さんに、コレ、貰った!」

 入ってきた沖田もハロウィンらしく仮装をしている。

「総悟は吸血鬼か……」

 雰囲気を出すために、つけている歯が異様に似合っている辺りが、沖田の性質を現しているのだろう。

「ハロウィンですからねェ。つーわけで、土方さん。菓子いらねーんで、イタズラさせて下せェ」
「誰がさせるかっ!!! つか、それじゃハロウィンじゃねーだろっ! 菓子やるから、さっさと出て行け」
「じゃあ、トリック、アンド、トリートで!」
「だから、誰がイタズラなんかさせるかっ!!! テメーにさせたら、イタズラですまねーだろっ!!!」

 子供のイタズラレベルなら、可愛いものだが、沖田にされては、菓子どころか、命まで持っていかれるだろう。

「…………チッ。しょうがねー。、次行くぜィ」
「次はなにくれるかなー」
「ちょっと待て、次ってどこ行くつもりだ?」

 土方が菓子を持っていたことが、心底残念だといった様子で、沖田はを促す。
 次ということはどこかに行くのだろうが、この格好で行くのだろうか。

「次は銀さんとこ。銀さんなら、沢山お菓子持ってるだろーし」

 ウキウキと出て行くの腕を思わず掴む。

「待て、あのヤローのトコなんざ、いく必要ねーだろ。万年金欠だろうが、アイツは」
「でも、いっつも飴とかくれるから、多分何か持ってると思うけど」

 どうしても、行く気らしいに対し、土方は今のの格好を銀時に見せたくなかった。行くなと言っても行くだろうということは分かっている。そのせいか、思わぬことを口ばしってしまった。

「俺も行く」
「土方さんもハロウィンするんですね」

 するとは言ってない。と言うつもりだったが、はすでに、何か鞄からゴソゴソと取り出した。

「ハロウィンするなら、これつけて下さいね」

 渡されたものは、仮装の道具。
 犬耳と犬の足のグローブ、そして、首輪…………。

「犬のコスプレなんて出来るかっ!!!!」

 土方は思わず怒鳴るが、は真面目な顔をして言い返す。

「ハロウィンに参加するんですから、仮装は当たり前じゃないですか。それから、それは犬じゃありません、狼男です」
「コレ、どーみても、犬じゃね?」

 土方の呟きは、浮かれまくっているには全く入っていなかった。
 その後、土方が、犬……もとい、狼男の仮装をしたかどうかは、別のお話。


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卯月 静 (08/10/31)