ザ・テンペスト 【 drinking 】 真選組の連中は、皆騒ぐのが好きだ。だから、何かあれば、宴会を開こうとする。 普段厳しい鬼副長も、宴会となれば大目に見てくれる。 とはいえ、この大所帯が入れる店など中々ないので、大体が屯所の道場ですることになる。それでも、隊士にしてみれば、酒が飲め、沢山食えて、騒ぎまくれるとなれば何の文句もない。 そして、男しか集まっていないからなのか、彼らの性格だからなのか、真選組の宴会は騒がしい。 本日も、この間のホスト誘拐事件が無事終わり、も無事救出できたことの祝いだという名目で、宴会が開かれていた。 いつもなら、隊士の世話をする側のだが、今日は捜査に協力したということで、強制的に参加だ。 「なんでィ。全く飲んでねーじゃねェか」 沖田に覗きこまれたのグラスは全く減っていない。 「は酒、苦手なのかィ?」 「うーん。苦手……なわけじゃないんだけど、飲むなって言われてて……」 の煮え切らない返答に、沖田は首を傾げた。 曰く、彼女自身は酒は好きらしい。だが、あまり強くはなく、そして、酔うと記憶が飛ぶらしい。 飲んだことのある友人には飲むな、特に、男の前では、と釘を刺されたとのこと。 それを聞いて、沖田が酒を勧めないはずがない。これは面白い物を聞いたとばかりに、に酒を勧める。 「そんなに大量に飲まなきゃだいじょーだろ」 「そーかな?」 「ほら、グイッと行きなせェ。これは度が低いから大丈夫だと思うぜ」 差し出されたグラスを何の躊躇も無く、しかし、酒だと聞いたので、控え目に口をつけた。 「んっ!? 苦っ!! 何、コレッ!!」 「あ。ヤベ間違えちまった。そりゃ、薬用のセンブリ茶だった。ほれ、水だ」 「何で、間違えるかなー」 酒だと思って飲んだものがセンブリ茶。普通は間違えない。これは明らかに、沖田の作戦だ。しかし、は気づかず、沖田の差し出すグラスを受け取る。 今度の色は無色透明。きっと水だとグイグイとのみ干した。 「ふぁ〜……酷い目にあった……。あれぇ…………なんか、ふわふわするー」 沖田はこれほどまで弱いと思っていなかったが、はどうやら先ほどの一杯の酒で酔ったらしい。 「こんどーしゃぁぁぁぁんっ!!」 ふらふらしながら、は輪の中心になっている近藤のところへ向かう。 そして、そのまま抱きついた。もちろん、輪を作っている隊士達は声を上げ、近藤もアタフタと焦る。 「ど、ど、ど、どうしたのちゃんっ!!!」 「あはははは。こんどーしゃんだー」 「ちゃん、酔ってる?」 「むう……酔ってなんか、らいもーん」 頬を膨らませて言う姿は愛らしいが、呂律が回っていないのは、酔ってる証拠だ。加えて言えば、総じて酔っ払いは酔っていないというものだ。 「とりあえず、放れよう? ね?」 いつまでも抱きつかれてはと、近藤はを放そうとするが、は一向に放れる気配がない。 「…………こんどーしゃんは……のこと、嫌いらのぉ?」 目を潤ませ、下からに見上げられ、固まる。 「ちゃんのことは嫌いじゃないけど、俺にはお妙さんが……」 とブツブツと呟き始めてしまった近藤を見ていて、つまらなくなったのか、は今度はターゲットを近くにいた土方にした。 「ひじかたしゃーん」 「あぁ? って、うおっ!!」 勢い良く抱きつかれ、そのまま後ろに倒れた。その体勢はが土方を押し倒している形になっている。 「ひじかたしゃんは、のこと好き?」 「は? はぁぁぁ?」 「嫌いなのぉ?」 「……いや、嫌いじゃねーけど……」 嫌いじゃないからこそ、この体勢はヤバイ。 「じゃあ、好き?」 ぱあっと明るくなったの表情を見て、思わず土方は頷いた。これできっと満足して、上からどいてくれるだろうと思った。 が、その選択肢はある意味正解だが、ある意味間違いだった。 「もねぇー、ひじかたしゃん好きー!!」 そういうや否や、退くどころか、は土方の頬に口付けた。 「お、お前っ!? 今っ?!」 あまりのことで、土方の声は上ずっていた。しかし、は意に介した様子もなく、ご機嫌なままだ。 「あはははは。ひじかたしゃん、まっかー」 「、俺だってそんなヤツ以上にが好きですぜィ」 二の句が告げない土方をみながら、沖田は割って入り、と土方を離す。 すると、それには反応し、今度は沖田に抱きつく。 ちゃっかり、抱きついてきたの腰に腕を回している辺りは、さすがというか、なんと言うか。 「ほんとぉ? じゃあ、ソウゴにもご褒美ー!!」 そう言って、土方にしたように、頬に口付ける。 それを見た隊士達が、俺もと言い出そうとしたが、沖田に睨まれ、口を噤む。 チャンスはチャンスだが、下手すれば、沖田に消されかねないことを悟り、隊士は泣く泣く諦めた。 「、どうせなら、口にしてくだせェ」 「口? ほっぺじゃダメらの?」 「……あ、やっぱりそのままで、俺のこと好きかィ?」 「うん、好きー」 の返答に、ニヤリと沖田は笑う。それをみて、意図に気づいた土方が、慌てて止める。 「総悟、手前ェー何言ってやがる!!」 「にご褒美を返すだけですぜ。ってわけで、……あれ? ?」 振り向くとは居らず、キョロキョロと辺りを見回す。 「ちょっと、ちゃん、マズイんだって、ホントっ!!」 「さがりゅはのこと嫌い?」 「嫌いじゃないけど……」 「じゃあーご褒美」 「だからっ!! そんなことしたら俺殺されちゃうってば」 今度は山崎に迫っているらしく、山崎は殺されまいと必死だ。が殺すのではなく、が山崎にキスしたことで、副長や一番隊隊長に殺されるのだ。 いくら、普段土方に殴られなれている山崎といえども、鬼の副長とサドの隊長相手に無事でいられる自信はない。 沖田と土方はさせてなるものかと、を引っ張る。 「手前ェ、何してんだ!」 「さがりゅにもご褒美、あげてたのぉー」 「あんなヤツに上げる必要はねーよっ!!」 「そうですぜィ、だから、俺に」 「総悟、手前ェも何言ってやがる!!!」 「自分が口にされなかったからって、ヤキモチですかィ。これだからムッツリ副長は」 「誰がムッツリだ、誰が!!!」 終にはいつものように喧嘩を始めてしまった。周りの隊士もそれを煽る。 は放って置かれたが、そうやら、酒が回ってきたらしく、その場で寝てしまった。もちろん、その周りの、連中は誰も気づいていない。 「はぁ……世話のかかる妹だな」 寝てしまったを、は抱き上げる。面白いことになっているなと、傍観してたが、寝てしまった以上、ここに置いておくわけにはいかない。 野郎ならともかく、大事な妹をこのまま寝かせて、風邪を引かせる訳にはいかないのだ。 気持ちよく眠っている妹を、部屋まで連れて行き、布団に寝かせた。 酔ってるからだと分かっているが、あの真選組の隊士をあれだけ振り回せるのは、わが妹ながらすごいと変な感心をしてしまう。 振り回された男達の気持ちも知らず、スヤスヤと気持ちよさそうに寝る妹を見て、は静かに笑う。 自分も戻るか、と立ち上がろうとすると、着物が何かに引っ張られた。見てみれば、がしっかりと握っている。上着などであれば、その場で脱げばいいが、が握っているのは、の着流し。脱ぐ訳にはいかない。 これが他の男なら、どうするか、とぐるぐる頭を悩ませるところだろう。しかし、自分は兄で、別に何も困ることはない。しょうがないから、そのままの隣に横になり、眠った。 翌朝、何も覚えていないと、一緒に寝ているを見つけた山崎が叫び声を上げ、騒がしくなったのは別のお話。 終 戻る 卯月 静 (08/11/15) |