Edo Side Story

【03】 転寝とストール





「あ、さん丁度いい所に」
「総悟くん。何か御用?」
「土方さんにお茶持っててくれやせんかィ? 朝から部屋に篭って仕事してるみたいですから、邪魔してやってくだせぇ」
「分かったわ。ふふふ」
「なんですかィ、こっちみて笑って……」

 沖田を見て、お茶の用意をしつつ笑うに、訝しげな視線を送る。

「何だかんだで、総悟くんは、土方さんのことが好きなんだなって」
「やめてくだせェ。気持ちわりィ。アイツの仕事を進ませないように、邪魔してやろうと思ってるだけでィ」
「分かった、分かった。そういうことにしてあげる」

 否定しても、ニコニコと嬉しそうにするに、沖田は溜息をつきながら、早くお茶を持っていった方がいいと促す。
 違うと分かっているが、を重ねてしまう。
 容姿だって年齢だってまったく違うのに……。
 いや、似てる、けど、似てない。
 それでも重ねてしまうのは何故だろうか。

「餓鬼だねェ、俺も」
 

 が居なくなった後、一人ぼやいた沖田の声を聞くものは誰もいなかった。



「土方さん。入りますよー……。あら……」

 返事がないから、そっと襖を開けると、そこには珍しい姿の土方が居た。
 誰かが入れば、必ずといって良いほど目を覚ますのに、起きる気配もなく、机に突っ伏して眠っている。
 起きないことよりも、まだ昼間のこの時間に、転寝をしてしまっていること自体が珍しい。

「風邪ひきますよ……」

 疲れているのだろう。そう思うと起せず、は、自分の羽織っていたストールを土方に掛けた。
 そして、滅多にある光景じゃないからと、土方の寝顔を覗く。
 本当に気持ちよさそうに眠っている。あの鬼の副長とは思えない。
 寝てるからと、先ほどよりも顔を近づける。相手が寝てなければ出来ないことだ。
 睫毛が長いなとか、やっぱ顔整ってるなとか、思いつつ観察をしていたのだが……。

「え? ……っ!!!!」

 不意に土方の瞼が開いた。
 慌てて、は体ごと後ろに引いた。

「……俺ァ、寝てたのか……」

 目を覚ました土方は、起きて首や肩をほぐしている。

、お前そこで何やってんだ」
「え、いや、あの。土方さんが、仕事、してるから、お茶持ってってくれっ、て総悟くんに、頼まれて、来たら、土方さん寝てたので……」

 あまりに急で、の心臓はバクバク鳴っている。

「総悟が? また何か企んでんじゃねぇだろうな……オイ、その茶入れたの総悟か?」

 の様子には、何も気づいた気配もなく、土方は問いかける。

「あ、コレは私が入れたので、大丈夫だと思いますよ」
「そうか……ん? 何だ? ストール?」

 お茶に手をつけようとしていたは、自分の肩にストールがかかっているのに気づく。
 直ぐに誰が掛けたものか分かったらしく、に掛けなおす。

「ありがとうな」
「い、いえ。土方さんが風邪を引くと大変ですから」

 御礼をいう土方の声や表情が優しくて、の心臓は一向に落ち着いてくれない。
 これ以上はここでは居れないと、は早々に走って部屋を出た。
 誰も来ないだろう所まできて、息を整える。

「……なんだったんだろう。さっきの……」

 土方が寝てる所に遭遇したり、土方の笑顔を見たりなどは、今までだってあった。なのに、今回は何故?
 そして、先ほどのことを思い出すとまた、顔が熱ってきた。

「ああっ! ストール土方さんの部屋に置いてきちゃった……」

 今すぐ戻って取りに行こうかと思うが、逃げるように出てきたから、変に思われただろう。そこに戻れば、きっと何故出て行ったかと聞かれる。
 言い訳が思いつくまで、土方に会わないように気をつけようと、ストールはまたの機会に取りに行くことにした。  


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卯月 静 (08/06/26)