Edo Side Story

【06】 家族とオムライス





 荷物と言うほど物は無かったので、万事屋へ引っ越すのは簡単だった。

「えっと、これからお世話になります」

 万事屋のソファーに座り、頭を下げる
 その光景を、新八と神楽は目を丸くして見ていた。

「こ、こちらこそお願いします」
「本当に銀ちゃんの妹アルか? 全然銀ちゃんに似てないヨ」

 礼儀正しいに、戸惑いつつ挨拶を返す新八に対し、神楽は彼女と銀時がどうしても兄妹に思えず、銀時に向かって尋ねる。

「おい、神楽、そりゃどーいう意味だ」
「そのままの意味ネ。銀ちゃんと兄妹なんて、が可哀想アル。今すぐこの天パと兄妹の縁を切るのオススメネ」
「ムリムリ、は俺の妹なの、切っても切れない糸で繋がってるんですー」

 言い合いをはじめた二人に、は置いてけぼりを食らってしまった。
 どちらも、もうの存在のことなど忘れてしまっているようで、言い合っている。
 すると、新八が謝りにきた。

「すみません。五月蝿くて」
「ううん、賑やかで楽しいよ。真選組もこれくらい賑やかだったし」

 自分に良くしてくれた真選組の皆のことを思い出す。
 別にこれからも、通いで真選組に行くのだから、懐かしむというのはおかしいのだが、一日中屯所にいる生活をしていたせいか、少し寂しくも思ってしまう。

「でも、銀さんに妹さんがいるとは思いませんでしたよ。何で今まで話してくれなかったんですか?」
「そりゃ、あれだよ。悪い虫がつかないようにだよ。ったく、悪い虫が付かないように、黙ってたっつーのに、よりにもよってチンピラ警察にだなんてなァー」
「何言ってるんですか、真選組の人達はさんを保護してくれたんですよ」
「でも、アレだぞ。の記憶喪失の原因はチンピラ警察共だぞ」
「まあ、それはそうですけど……」
「そうネ。、あのチンピラ共に変なことされてないアルカ?」
「変なこと? 皆いい人ばっかりだったよ」

 神楽はどうやら、のことを気にってしまったらしく、にベッタリくっついている。
 で、妹が出来たみたいだと、ニコニコと神楽と話している。

「……ホント、似てねえよなァー……」
「だから、それはさっきから僕と神楽ちゃんが言ってるじゃないですか」
「……そうだな……」

 じっとを見たまま、呟いた銀時に、新八は呆れたように言うが、銀時は生返事を返すだけ。
 新八は変だと思いつつも、銀時が変なのは今に始まったことではないから、特に気にしなかった。

 暫く談笑していたが、神楽のお腹の音で、そろそろ夕食にすることになった。

「あ、今日は私が作ります」

 新八が何か作ろうと立ち上がると、が申し出てくれた。
 だが、冷蔵庫には碌なものが入っていない。これは、買い物に出かける必要がある。だが、金は……。

「銀さん、食費まだ残ってましたっけ?」
「ねーよ」
「ですよね……」
「食費くらいなら、私が出しますよ。これからお世話になる訳ですし」
「さすが、俺の妹!」

 銀時はすでに彼女にお金を出してもらう気でいる。の申し出に、新八は悪いなと思いつつ、彼女自身が言ってるのなら、いいかと甘えることにした。
 というか、彼女が来たことで、ひょっとしたら、万事屋の家計は楽になるかもしれない、と甘いことを思ってみたりする。

「とりあえず、買い物行かねーとな。ほら、行くぞ
「あ、はいっ!」

 の頭をポンと叩き、玄関に向かう。その後をパタパタと追いかける様子は、微笑ましく、似てないと思ってはいたが、やはり兄妹なんだなと新八は思っていた。





「アレ、さんじゃありやせんか」

 スーパーに行くと、何故か沖田がいた。
 屯所から万事屋に移動したのは午前のことだから、さっき別れて、今会うと不思議な感じがする。

「総悟君もお買い物?」
「あー、俺は土方さんのマヨを買いに来たんでさァ」

 言いつつ沖田は、手に持っていたワサビ入りマヨネーズを見せる。
 土方という言葉に、の心が反応する。
 彼はが屯所を出るとき居なかった。一言御礼が言いたかったのが、仕事が忙しいらしく、朝から顔も見ていなかった。
 いや、が万事屋に移ることが決まった時からあまり会ってない。
 ひょっとしたら避けられていたのかもしれない。
 銀時と土方はあまり仲が良くないから、が銀時の妹だと知って、話したくなくなったのかもしれない。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというし。

「……土方さん、最近忙しそうだったね……。朝も居なかったし……」
さん……」

 土方の名前を出してしまったことは失敗だったと、沖田は気づいた。
 土方がを避けているのは沖田も知ってはいた。だが、理由が分からない。最近はとも普通に接していたはずなのに、急にだ。

「沖田君、俺の妹を困らせるんじゃねーよ」
「旦那……」
「ほら、そろそろ帰るぞ。どうせ明日も真選組に行くんだ。今日は偶々アイツも忙しかったんだろ」

 話題を打ち切るように、遮り、を連れていく銀時。
 沖田は何か釈然としない物を感じてはいたが、深く追求せず、その場を後にした。
 銀時に促されるまま帰る。先ほどの銀時の言葉でいくらか楽にはなった。
 そうだ、土方は副長なのだから、仕事の量も多いのだ。屯所にいる時だって、朝から夕方まで顔を合わせない日だってあったはずだ。
 少し自分は自意識過剰になってしまっていたのかもしれない。

「銀さん、今日何が食べたいですか?」
「そうだな。が作るなら何でもいいけど、強いて言うならチョ」
「チョコパフェは却下です。止められてるんですよね。それ以外で」
「…………なら、オムライスで」
「分かりました。頑張って作りますね」  


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卯月 静 (08/07/05)